(※写真はイメージです/PIXTA)

一店舗目の成功を足掛かりに、事業を拡大し、二店舗目を目指す。それは、多くの経営者が抱く当然の野心です。しかし、その野心が、時として冷静な経営判断を狂わせる“魔物”に変わることも……。「天ぷら圓堂」の主人・遠藤弘一氏の著書『まっすぐ精進 京都祇園「天ぷら圓堂」繁盛記』(幻冬舎メディアコンサルティング)より、同氏の実体験から、経営者を縛り付ける“くだらないプライド”の正体に迫ります。

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不要なプライドによる二店舗目の失敗

ところがいざオープンすると、本店が忙しい時、新しい店は暇、新しい店が忙しい時は本店が暇という状況になってしまいました。店に来てくださるお客様が使い分けてくださるようになっただけだったのです。

 

二店舗目を出す時に、一店舗目と何か大きな違い、差別化をすればよかったのかもしれません。でもその時の私は、とにかくもう1店舗、新たに店を出したい。一店舗目がうまくいったのだから、同じようにして出店すればうまくいくと思い込んでいたのです。だから一店舗目と差別化をしようなどと、考えもしませんでした。それほど、新たに店舗を持ちたいという気持ちが強かったのです。

 

結果、同じような造りの、同じ値段の、同じ料理を出す、一店舗目と同じようなお店を近くにもう一つ作ってしまいました。自分で自分のライバル店を作ってしまったのです。

 

このことに気づくのに1年ほどかかりました。どうしてもっと早く気づけなかったのか、情けないばかりです。しかも、JCで知り合った二店舗、三店舗を切り盛りしている仲間に憧れて二店舗目を出店したこともあり、うまくいかないからとすぐに閉店することに恥ずかしさを感じていました。

 

また、店の賃貸契約をする際に払った1600万円の保証金が、契約上、1年以内に出て行った場合には返金ゼロ。3年で出て行ったら半分返金。10年で全額返金という感じで、ものすごく厳しかったのです。今すぐに二店舗目を閉店したら、その保証金がふいになってしまいます。そう思ったら、もったいなくて、すぐにはやめられなかったのです。

 

結局、二店舗目は5年間、営業を続けました。その間、大家さんに交渉して家賃を少し下げてもらうなどしながら、二店舗目の赤字分は、一店舗目の利益で補っていた感じです。しかもこの二店舗目を出すにあたり、内装費が何千万円もかかっていましたから、一店舗目の借金の返済に加えて、また借金が増えていました。

 

働いて、利益を出しても出ていくばかりの日々に、いつまでもこんなことを続けてはいられないと頭ではわかっていても、二店舗目を閉店しようと決意することはできませんでした。せっかく出店した念願の二店舗目です。JCの仲間や常連のお客様たちに、「二店舗目、うまくいかないから閉めたんですわ」と言うのが恥ずかしくて嫌だったのです。

 

でも、5年経った頃、今のこの状況に嫌気がさして、ようやく二店舗目を閉めようと心を決めることができました。すると、JCの仲間をはじめ、知り合いの起業家の先輩方、常連のお客様から、「ようやくやめたんか。俺ら、なんでやめへんのやろうって、ずっと不思議に思ってたんよ」と言われたのです。

 

「ええー。そんなん思ってたんなら、もっと早よ言ってよ」と思いました。いったい、私は5年間も何を頑張っていたのかと、わからなくなったことを覚えています。保証金がもったいないとか、出店してすぐに閉店することが恥ずかしいとか、理由はありましたが、もっと早く決断すべきでした。そのことに気づけなかった自分は本当にアホだったと思わざるをえません。

 

ただ、当時の私は、二店舗目を閉店するよりも、なんとか続けて、自分のプライドを保ちたかったのだろうと思います。そのプライドにどれだけの価値があったのか。冷静に考えれば、無価値だとわかります。なぜそのようななんの価値もないプライドに固執していたのか不思議でなりません。

 

でも二店舗目を出して失敗したことで、自分の中に必要のないプライドがあったこと、そのプライドによって、すぐに閉店するという決断ができなかったことがわかりました。これは私にとって、大きな学びとなったのです。

 

 

遠藤 弘一

株式会社圓堂

代表取締役

 

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※本連載は、遠藤弘一氏の著書『まっすぐ精進 京都祇園「天ぷら圓堂」繁盛記』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋・編集したものです。

まっすぐ精進 京都祇園「天ぷら圓堂」繁盛記

まっすぐ精進 京都祇園「天ぷら圓堂」繁盛記

遠藤 弘一

幻冬舎メディアコンサルティング

石畳と格子戸がつづく祇園。夕暮れの路地を舞妓がすり抜け、座敷の明かりがにじむ――お茶屋・置屋・仕出しが役割を分かち合う商いが息づく花街。この祇園の地で、明治十八年創業のお茶屋「近江榮」を受け継いだ著者は、1991年…

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