JICAも懸念「4年の遅れ」 日本も支援する「フィリピンの巨大鉄道計画」はなぜ進まないのか

9月8日週「最新・フィリピン」ニュース

JICAも懸念「4年の遅れ」 日本も支援する「フィリピンの巨大鉄道計画」はなぜ進まないのか
写真:PIXTA

一般社団法人フィリピン・アセットコンサルティングのエグゼクティブディレクター・家村均氏が、現地から最新状況を解説するフィリピンレポート。今回は、フィリピンの巨大インフウラ計画の進捗について。日本が巨額の資金を支援し、マニラ首都圏の交通を劇的に変えるはずの「北南通勤鉄道」計画は目標を大幅に下回り、JICAからも「4年の遅れ」が指摘される非常事態に陥っています。現場では一体何が起きているのでしょうか。

フィリピン・インフラ開発…旗艦プロジェクトの進捗に遅れ

フィリピンの経済計画開発省(DEPDev)は、政府が推進する旗艦インフラ事業(Infrastructure Flagship Projects: IFP)のうち、マルコス大統領の任期内に完成が見込まれるのは合計257件中52件であると発表しました。

 

このうち8件がマスタープランや調査段階の案件で、実際に進行中のプロジェクトは52件です。現時点では23件が予定通り進行している一方、残る29件は少なくとも2ヵ月の遅延が生じています。遅延プロジェクトは、農業省、情報通信技術省(DICT)、運輸省(DOTr)、公共事業道路省(DPWH)、地方水道局(LWUA)、マニラ大都市水道下水道局(MWSS)、国家灌漑庁(NIA)、フィリピン統計局(PSA)、フィリピン大学(UP)、通行料金規制委員会(TRB)など複数の機関にまたがっています。

 

これら52件の内訳は、交通インフラ関連が32件、水資源関連が8件、デジタル接続・医療インフラがそれぞれ4件、農業関連が3件、エネルギー・電力関連が1件です。特にマニラ首都圏(NCR)、セントラルルソン、カラバルソン地域には、総額約10億ペソ相当の21件のプロジェクトが集中しています。

 

遅延の主な要因としては、以下の点が挙げられています。

 

・用地取得や敷地条件

・施工業者およびコンサルタントの能力

・予算の制約

・調達プロセス

・法的・政策的な障壁

 

これに対し、DEPDevおよび関係機関は、用地取得や進入路の簡素化、パフォーマンス管理システムの構築、調達計画の改善、法的問題への対処などを進める対策を講じています。

 

さらに、昨年発出された大統領令第59号により、IFP関連の許認可機関が従来の30機関から12~18機関に絞られ、許認可取得手続きの効率化が図られています。また、IFPの進捗を視覚的に把握できる「IFPダッシュボード」やモニタリング・報告システムも導入されました。

 

6月時点で完成済みのIFPは7件あり、内容は以下の通りです。

 

・サマール太平洋沿岸道路

・パンパンガ湾の低地における統合型災害リスク低減・気候適応措置

・カガヤン・デ・オロ川の洪水リスク改善・管理

・スララー=トボリ=サンホセ道路

・プラリデル・バイパス道路第3期

・パンギル湾橋

・パシッグ・マリキナ川改良

 

2026年度国家歳出プログラムでは、これら52プロジェクト向けに5,208億ペソが配分されており、これは同年度に必要となる総額1兆5,720億ペソの約33.14%に相当します。これとは別に、政府は総額1兆5,580億ペソのインフラ整備プログラム予算を計上しています。さらに、来年度にはバターン・カビテ間橋、ラグーナ湖畔道路網、パシッグ・マリキナ川改良プログラム第4期など、新たに54件の旗艦プロジェクトが優先課題として設定されています。

 

また、北南通勤鉄道(NSCR)の進捗率は2025年第2四半期時点で38.87%にとどまっており、当初目標の87%には大きく届いていません。マニラ—マロロス間の区間は2026年末から2027年前半の運行開始を目指しており、接続区間は2027年までに完成予定ですが、日本側パートナー(JICA)からは4年の遅れが見込まれるとの見通しも示されています。

 

フィリピン政府は、2028年までに52件の旗艦インフラ事業を完成させる強い意志を示していますが、半数近くで進捗の遅れが顕在化しています。予算や調達、法的手続きなどの制度的課題が依然として足かせとなっており、迅速な対処が求められます。今後、プロジェクトの効率的な推進には許認可の一元化や進捗モニタリング強化などの取り組みを継続することが鍵となるでしょう。

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※当記事は、情報提供を目的として、一般社団法人フィリピン・アセットコンサルティングが作成したものです。特定の株式の売買を推奨・勧誘するものではありません。
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※当記事の比較するターゲット株価は、過去あるいは業界のバリュエーション、ディスカウントキャッシュフローなどを組み合わせてABキャピタル証券のプロアナリストが算出した株価を参考にしています。

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