存在しない事業に巨額の税金…フィリピン経済を揺るがす「ゴーストプロジェクト」の恐るべき実態

9月22日週「最新・フィリピン」ニュース

存在しない事業に巨額の税金…フィリピン経済を揺るがす「ゴーストプロジェクト」の恐るべき実態
写真:PIXTA

巨額の税金が、存在しないはずの事業に―。フィリピンで発覚した「ゴーストプロジェクト」が、経済成長の要であるインフラ投資を根底から揺るがしている。この前代未聞のスキャンダルは経済にどのような影響を与えるのか。政府が打ち出した起死回生の策とあわせ、その深刻な実態に迫る。

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「ゴーストプロジェクト」が経済成長の足かせに

フィリピンでは現在、いわゆる「ゴーストプロジェクト」スキャンダルが発覚し、公共インフラ事業に停滞リスクが高まっています。インフラ投資は2026年にGDPの5.1~5.2%を占める見込みであり、景気押し上げの柱とされてきました。しかし不正疑惑による停滞は、過去の事例が示すように経済に深刻な影響を与える可能性があります。2019年の予算成立の遅れでは、GDP成長率が0.7~0.9ポイント押し下げられた経緯があり、ブラジル、マレーシア、インドネシアでも汚職調査による事業麻痺が成長を阻害しました。

 

試算によれば、インフラ執行が20%遅れればGDPを0.8ポイント、40%なら1.7ポイント押し下げ、最悪の場合、事業の凍結と予算の遅延が重なると、成長率を2.5ポイント押し下げる可能性があります。影響はゼネコンだけでなく、銀行、サプライチェーン、雇用、消費にも波及します。

 

政府は調達改革を進めており、公共調達法や電子入札システム「PhilGEPS」、PPP法制が整備されていますが、実行力には課題が残ります。今後必要とされるのは、即時着工可能な案件の確保、常習的な不正業者の排除、マイルストーンベースの電子請求による迅速な支払い、そして地理情報付きダッシュボードによる透明性の確保です。さらにPPPスキームを活用することで、政府予算や監査停滞に左右されない進行が可能になります。

 

セクター別では、短期的にはゼネコンのEEI Corporation(EEI)、DMCI Holdings(DMC)、セメントのCemex Holdings Philippines(CHP)などが資金執行停滞の影響を受けやすく、業績への下振れ懸念が強まります。一方、中期的には、遅延した事業再開やPPP案件の流入によって、Megawide Construction(MWIDE)、DMCI、セメント関連が恩恵を受けやすい構図となります。また、Metro Pacific Investments(MPI、GTCAPグループ傘下)やSan Miguel Corporation(SMC)といったコンセッション依存度の高い企業は、財政遅延の影響を受けにくい「安全資産」とみなされています。

 

政府支出はGDPの約22%を占め、乗数効果は約3倍と推定されています。つまり、政府が1ペソ支出すると、関連産業や消費活動を通じて最終的に3ペソ程度の経済効果が波及するということです。したがって予算の遅れや削減は、景気全体に大きな影響を与えるリスクがあります。さらに、財政赤字補填のための借入増大は、民間投資資金を押しのけてしまう「クラウディングアウト」現象を引き起こす可能性もあります。これは政府が大量に資金を借り入れることで金利が上昇し、企業や個人の借入余地が圧迫される仕組みを指します。

 

今回のスキャンダルは、フィリピン経済の成長ドライバーであるインフラ投資の信頼性を揺るがす問題です。短期的な停滞リスクは避けられませんが、改革の実行とPPPの積極活用が進めば、中期的な投資機会はむしろ拡大します。投資家にとっては、短期の逆風を耐えつつ、事業再開の局面に備える戦略が有効といえるでしょう。

 

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