ゴールドオンライン新書最新刊、Amazonにて好評発売中!
『司法書士が全部教える 「一人一法人」時代の会社の作り方【基本編】』
加陽麻里布(著)+ゴールドオンライン (編集)
『富裕層が知っておきたい世界の税制【カリブ海、欧州編】』
矢内一好 (著)+ゴールドオンライン (編集)
『司法書士が全部教える 「一人一法人」時代の会社の作り方【実践編】』
加陽麻里布(著)+ゴールドオンライン (編集)
シリーズ既刊本も好評発売中 → 紹介ページはコチラ!
為替の値動きにヒヤヒヤ…なぜ「固定相場制」に戻さない?
現在、ドルの値段は需要(買い注文)と供給(売り注文)によって変動しています。ドルの需要が多ければドルが値上がりし、少なければ値下がりするわけです。これを変動相場制と言います。
ドルの値段が毎日(実際には毎秒)変化すると、ドルを持っている人、輸出企業や輸入企業の人は気が気ではありません。たとえば輸出企業は、輸出の契約をしても代金が回収された時に円高ドル安になっていたら損をしてしまうかもしれませんし、工場を建てても完成時に大幅な円高ドル安になっていれば工場が稼働できない(製品を作って輸出しても赤字になってしまうから稼働しない)かもしれません。
そんなことなら、高度成長期のようにドルの値段を政府が法律で決めてくれれば(固定相場制を採用すれば)便利でしょう。なぜ、政府はそうしないのでしょうか?
それに対する理由を2つ取り上げたいと思います。
理由①…日米の物価上昇率の差で、制度が維持できなくなるから
固定相場制を採用するときには、貿易収支がゼロになるようなドルの値段を採用するとしましょう。日本と米国の物価水準が等しくなるようなドルの値段を採用すれば、輸出と輸入が同額となって、ドル売りとドル買いが等しくなると期待されるからです。
しかし、日本より米国のほうが物価上昇率が高いですから、固定相場制を採用してから何年かすると、「多くの物が、日本より米国のほうが高い」ということになります。そうなると、米国人がドルを持って日本に買い物に来ます(実際には輸出企業が海外から持ち帰ったドルを銀行に売りに行く場合が多いでしょうが)。多くの米国人がドルを売りますが、ドルを買う人は多くないので、政府がドルを買わざるを得ません。固定相場制を採用するということは、「売買注文の量が異なる場合は政府が取引に応じる必要がある」ということだからです。
時間が経つと、ますます米国と日本の価格差が広がり、ますます多くの米国人が買い物に来るので、政府が買うドルは増えていきます。そうなると、米国政府から苦情が来るでしょう。「日本が固定相場制だから、米国製品が売れずに米国企業が困っている。固定相場制の法律を廃止しろ」というわけです。
日本政府が仕方なく固定相場制を廃止すると、米国人の大量のドル売りによってドルは値下がりします。日本政府は巨額のドルを持っていますから、値下がりによって大損してしまうでしょう。そうなることが容易に想像できるので、政府は固定相場制を採用しないのです。
理由②…金利差狙いで、日本人がドルを買いまくるから
米国の銀行に預金する(または米国債を購入する、以下同様)と、日本の銀行に預金する(または日本国債を購入する、以下同様)より高い金利が受け取れます。それならば、日本人の多くが銀行預金を引き出してドルに替え、米国の銀行に預金するはずですが、なぜそうしないのでしょうか?
それは、ドル安円高のリスク(為替リスク)があるからです。ドルを買った時より将来売る時のほうがドルが安くなっていれば、高い金利を受け取ってもそれ以上に損をしてしまう可能性があるからです。
そんなときに、日本政府が「固定相場制」を採用してくれたら、皆が安心してドルを買って米国の銀行に預金しようとするでしょう。買ったときの値段と売るときの値段が同じであることを日本政府が保証してくれるわけですから。
日本中の人が日本の銀行から預金を引き出してドルを買うわけですから、ドル買い注文は巨額になるはずです。
輸出企業はドルを売るでしょうが、それを遥かに上回る量のドル買い注文が殺到します。差額の分は日本政府がドルを売る必要がありますが、日本政府が持っているドルの量よりも多くのドル買い注文が殺到して、日本政府は固定相場制を守れなくなってしまうのです。そうなることがわかっているので、日本政府は固定相場制を採用しないのです。
米銀への貯蓄を禁止すれば、もしかするといまだって…
理由①は、理屈としてはまったく正しく、素晴らしいですが、実際には何年も経過してから固定相場制が廃止されるのではなく、固定相場制が採用された瞬間にドル買いが殺到して固定相場制が撤回されることになるはずです。しかも、日本政府が大量のドルを買うのではなく、大量のドルを売ることによって。
それでは、なぜ高度成長期の日本では固定相場制が長続きしたのでしょうか。その最大の理由は、当時は米国の銀行に預金することが禁止されていたことです。いまでも、米国の銀行に貯金することを禁止すれば、固定相場制を採用することは可能ですが、金融が国際化した現在となっては禁止の弊害が大きいので、採用されないのです。
その弊害を覚悟したうえで固定相場制を採用することは可能ですが、それでも理由①は実現してしまうので、やはり固定相場制を採用するのは避けたほうがよさそうです。
今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。
筆者への取材、講演、原稿等のご相談は「ゴールドオンライン事務局」までお願いします。「THE GOLD ONLINE」トップページの下にある「お問い合わせ」からご連絡ください。
塚崎 公義
経済評論家
注目のセミナー情報
【海外不動産】12月18日(木)開催
【モンゴル不動産セミナー】
坪単価70万円は東南アジアの半額!!
世界屈指レアアース産出国の都心で600万円台から購入可能な新築マンション
【事業投資】12月20日(土)開催
東京・門前仲町、誰もが知る「超大手ホテルグループ」1階に出店!
飲食店の「プチオーナー」になる…初心者も参加可能な、飲食店経営ビジネスの新しいカタチとは?
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■親が「総額3,000万円」を子・孫の口座にこっそり貯金…家族も知らないのに「税務署」には“バレる”ワケ【税理士が解説】
「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】
