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劇場の火災で、観客全員が非常口へ突進すると…
劇場火災の際、観客個人として合理的な行動は非常口に向かって走ることです。しかし、全員が同じことをすると、非常口に大勢が殺到して悲惨な事態に陥ります。劇場支配人としては、「走らず、落ち着いて列になって歩いて下さい」などとアナウンスをするのでしょうが、各自が合理的に行動しているのを変えさせようとするのは容易なことではないでしょう。
このように、皆が合理的に行動すると皆がひどい目に遭う、ということを「合成の誤謬」と呼びます。「赤信号、皆で渡れば怖くない」昭和のギャグがありましたが、その反対に「皆で渡ると余計あぶない」ということですね。これは経済の世界でも珍しくありません。
株価が暴落するという噂が流れたときに、投資家にとって合理的なのは株を売ることですが、皆が一斉に株を売ると買い注文がないのでだれも株を売れず、株価だけが下落して全員が損をします。
銀行倒産の噂が出たときに預金者が取るべき合理的な行動は、銀行預金を引き出すことですが、全員がそれをやると銀行の金庫が空になってしまい、本当に銀行が倒産してしまうかもしれません。もっとも、銀行の場合には、そうした事態を防ぐために日銀が現金輸送車で札束を届けてくれることになっているので、最悪の事態は防げる場合も多いでしょうが。
不況で解雇された失業者が、生活を切り詰めると…
人々が豊かになろうと考えた時、合理的なのは懸命に働いて大いに稼ぎ、節約をして余った生活費を貯めることでしょう。しかし、全員が同じことをすると、悲惨なことになります。皆が懸命に働くと多くの物(財およびサービス、以下同様)が作られます。皆が倹約して物を買わないと、多くの物が売れ残ります。そうなると企業は生産を減らしますから、従業員を解雇します。
解雇された元労働者は失業者となって生活を切り詰めますから、物が一層売れなくなります。そうなると、失業者の増加と売れ残りの増加が止まらなくなります。失業した人がかわいそうなだけではありません。失業していない人も「給料を下げる。嫌なら君たちを解雇して失業者を雇ってくる」と言われると、給料の引き下げに応じざるを得ないでしょう。そうなると、サラリーマン(男女を問わず、公務員等を含む。以下同様)の収入が減り、物が一層売れなくなります。
じつは、バブル崩壊後の長期低迷期をもたらしたのは日本人が豊かになろうと頑張りすぎたからなのではないか、と筆者は考えています。イタリアに旅行した時に、「こんなに働かない連中より日本人の方が貧しいなんて悲しいことだ」と感じたのですが、実は日本人が働きすぎるから貧しかったのかも、というわけですね。
最近ようやく、少子高齢化で労働力希少(労働力不足と呼ぶ人が多い)になり、皆が懸命に働いても物が売れ残らないようになってきました。それによって、ようやくバブル崩壊後の長期低迷期を脱したのです。
「バブル崩壊後の不良債権処理」も同様だった!?
バブル崩壊後、銀行は巨額の不良債権を抱え込みました。正直に申告するとひどい決算になるので、多くの銀行が粉飾決算をしていたと思います。「借金返せない」といわれても、「聞かなかったことにしていた」のです。
それに対して「粉飾決算はいけない」「借金を返せないような会社は潰してしまった方が日本経済のためだ」等々の正論を述べる人も大勢いましたが、大蔵省検査(現在の金融庁検査)では、それほど厳しい指摘はなされませんでした。優秀な大蔵官僚があれほどの粉飾決算を見落としていたとは考えられません。業界と官僚の癒着という面も皆無ではなかったのでしょうが、広範囲な粉飾決算の状況からすれば、そんなもので説明がつくような度合いではなかったと思います。
実は筆者は「大蔵省は日本経済を救うために粉飾決算を故意に見逃していた」のだと考えています。個々の銀行にとって合理的なのは、赤字決算になっても不良債権を処理することだったかもしれません。他の銀行が返済を求める前に借り手に返済を求めていれば、不動産価格が下がる前に担保の不動産を競売していれば、回収額が増えていたはずだからです。しかし、各銀行は赤字決算を恐れて粉飾をし、大蔵省は日本経済の崩壊を恐れて見逃していたのです。
筆者の想像する大蔵省の考え方は「すべての銀行が担保不動産を競売したら、不動産の売りが殺到して不動産価格が暴落し、どこの銀行も貸出金が回収できなくなってしまうだろう。それは避けるべきだ」というものです。少なくとも、筆者が大蔵省の権力者だったら、そう考えたはずです。実際の大蔵省幹部が筆者と同じ思考回路だったのか否かは、確認していませんし、聞いても答えてくれないでしょうが(笑)。
今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。
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塚崎 公義
経済評論家
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