ゴールドオンライン新書最新刊、Amazonにて好評発売中!
『司法書士が全部教える 「一人一法人」時代の会社の作り方【基本編】』
加陽麻里布(著)+ゴールドオンライン (編集)
『富裕層が知っておきたい世界の税制【カリブ海、欧州編】』
矢内一好 (著)+ゴールドオンライン (編集)
『司法書士が全部教える 「一人一法人」時代の会社の作り方【実践編】』
加陽麻里布(著)+ゴールドオンライン (編集)
シリーズ既刊本も好評発売中 → 紹介ページはコチラ!
入居金1,500万円で始めた「理想の第二の人生」
その施設には、ダイニングルームにグランドピアノが置かれ、定期的にピアノコンサートや歌の会が開かれていました。かつて夫婦でクラシックコンサートを楽しんだ思い出がよみがえり、「ここなら心豊かに過ごせる」と和子さんは心を動かされたのです。
さらに、館内には足湯を楽しめるリラクゼーションスペースもあり、日常に小さな癒しを取り入れられる点も魅力でした。ホテルのようなラウンジも備えられ、友人に胸を張って自慢できる環境に、当初は「理想の第二の人生」を歩みはじめたかにみえました。
しかし、この決断がやがて思わぬ“老後資金の落とし穴”につながっていきます。
入居金1,500万円、月額28万円…年金収入18万円では埋められない差額
和子さんが入居したのは、東京都内でも郊外に位置する高級住宅型有料老人ホームでした。入居一時金は1,500万円、月額の基本費用は28万円。食事・管理費・居室使用料を含む金額で、同規模の施設では相場の範囲内といえます。
和子さんの収入は国民年金(老齢基礎年金)と遺族厚生年金を合わせて月18万円ほど。差額の10万円を預貯金から取り崩す生活が始まりました。
幸いに元気であり、医療費はほとんどかかっていないものの、外出イベントや有料のレクリエーションなど積極的に参加し、施設内での交流を深めていました。月2回の外出ツアー(1回8,000円)、週1回の文化教室(月1万5,000円)、理美容サービス(月8,000円)など、充実したシニアライフを満喫していたのです。そのため、支出は想定以上に膨らみ、毎月32万円近くに達していました。
そうした生活を3年続けた結果、毎月14万円の赤字が積み重なり、500万円以上の預貯金を取り崩すことになりました。入居時に2,500万円あった資金は、すでに2,000万円を切っています。このペースでは90歳を迎える前に資金が尽きる可能性が現実味を帯びてきました。
今後、体調の変化によって医療や介護サービスを利用するようになれば、その費用は別途発生します。現時点でさえ月14万円の赤字であることを考えると、将来的な負担はさらに重くなるのは避けられません。まさに「寿命との競争」が始まっているのです。
「なにがいけなかったの……。安心して暮らすために選んだホームなのに、逆に老後資金の不安が増えてしまった」――。和子さんはそう、面会に訪れた娘の前でむせび泣きました。

