築40年の木造アパートを売却したら、突然「税務署」から“お尋ね”が届いたワケ【税理士が解説】
子どもとの関係性が悪い場合は、むりに家族信託を使わないという手も
一方で、もし親子間・きょうだい間の関係性が悪い場合には、家族信託の設計にも注意が必要です。この場合、同じ家族構成だとしても、上記のような家族信託の形が最適だとはいえません。Cさんの事例でみていきます。
80代のCさんにも、2人の子ども(長女・長男)がいます。長女はCさんの面倒をよく看てくれる一方で、長男はCさんの介護などにいっさい関与せず疎遠という状態です。Cさんは、「財産はなるべく長女に渡したい」と考えています。
この場合、家族信託などの仕組みは避け、1つ目の事例で述べた「任意後見契約」を長女と結び、かつCさんが「全財産を長女にのこす」という旨の公正証書遺言を作成する、という組み合わせで対処することが現実的かもしれません。
さらにいえば、長男から仮に遺留分請求があった場合に備え、金銭財産の一部については死亡時一時払いの生命保険を活用するといいでしょう。この生命保険については、相続税の対策にもなるため一石二鳥ともいえます。
ただし、家族信託を設計しない分、仮にCさんが施設入居費用を工面するために不動産を売却しなければならないという局面で、Cさんが重度の認知症を発症していた場合においては、前述の「任意後見契約」を発動する必要があります。
この点はデメリットといえるかもしれませんが、しかしこのケースにおいては、家族信託を“あえて使わない”ほうが適している可能性があります。
資産管理法人の承継も、個人不動産も“ハイブリッド”に備える
家族信託や資産管理法人の活用は、不動産賃貸業を営むオーナーが直面する「認知症リスク」や「相続問題」といった不安を、事前に解消できる強力な手段です。
とりわけ両者を組み合わせたハイブリッドな戦略は、さまざまな面で柔軟性が高く、会社事業と資産を確実に次世代へバトンタッチするための有効な選択肢となります。
ご家族の状況に応じた設計が重要となるため、まずは専門家に相談しながら、いまできる備えを1歩ずつ進めてみてはいかがでしょうか。
その際、忘れてはならないのが、家族以外の関係者の存在です。預金や融資取引のある銀行、収益アパートの管理会社など、事業に密接に関わる第三者に対して、事前の相談や、実際に制度を使って資産を動かす際の説明がしっかり行えるよう準備することも大切です。
溝口 矢
法律事務所Z アソシエイト・東京オフィス
弁護士

