(※写真はイメージです/PIXTA)

顧客に商品を買ってもらうために、古今東西、さまざまなビジネステクニックが存在します。その中でも基本的なものとして、客の「数字の記憶」を応用する、面白い方法があります。具体的に見ていきましょう。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。

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人間は「直前に見た数字」に影響されがち

人間の眼が錯覚するのは有名ですが、脳も錯覚するのをご存じでしょうか。拙稿『試着して、気に入らなければ返品OK…通販会社のビジネスモデルを成立させる「人間の脳」の不思議なしくみ』では、「一度手に入れたものは手放しがたく感じる」という錯覚について、また『もしかしたら…が共通点!?「宝くじの購入」「保険の加入」をしたくなる〈脳の錯覚〉とは?』では、「非常に小さな確率は実際よりも大きく感じる」という錯覚について記しました。今回は「人間は直前に見た数字に影響される」という面白い錯覚について見ていきましょう。

 

あるグループの人たちに、下記の質問をします。

①「利根川は50kmより長いと思いますか? イエスかノーで答えて下さい」

 

そして別のグループの人たちに、下記の質問をします。

②「利根川は500kmより長いと思いますか? イエスかノーで答えて下さい」

 

その後、それぞれ回答したグループの人たちに、

「では、利根川は何kmだと思いますか? 数字で答えて下さい」

 

と質問すると、②の質問を受けた人たちのほうが、大きな数字を答える可能性が高いというのです。質問自体はまったく同じなのに…。

 

「出席番号を聞いたあとでアフリカにある国の数を聞くと、出席番号が大きい生徒ほど大きな数字を答える」という話もあるのですが、さすがにそれはチョッと疑わしいかもしれません(笑)。

10万円の宝石を「安い!」と思わせるテクニック

宝石店の店頭には、数百万円もする豪華な宝石が飾ってあることがあります。強盗や窃盗のリスクがあるのに、なぜでしょう? それは「客の脳の錯覚」に期待しているからだといえます。

 

客は豪華な宝石を眺めながら「数百万円」という値札を記憶しますが、そのあと店内で「10万円」の宝石を見たら、「安い、これなら買える!」と思うかもしれません。

 

100円ショップで買い物をしたあとで宝石店に来た客は、頭の中に「100円」という値札の残像が残っていますから、「10万円」という価格を見ると「高い!」と感じるでしょう。そこで、入り口の豪華な宝石の展示で、「100円」の残像を「数百万円」に塗り替えてやる必要があるわけです。

マンションを契約した日に家具を買ってはならない理由

数千万円のマンションの購入契約をした日に家具を買うのは、避けたほうがいいのです。なぜなら、大きな金額を見たあとに、5万円の家具と10万円の家具を見たら、「たった5万円の違いなのだから、豪華な方を買おう!」ということになりかねませんから。

 

マンションの購入契約をした日はまっすぐ帰宅し、後日、バーゲンセールか100円ショップへ足を運んで〈頭の中の値札〉を書き換えてから家具売り場に行きましょう。そうすれば「5万円も違うなら、安い家具にしておこう」と考える可能性が高まるでしょう。

倍に値上げしてから「今日はバーゲンだから半額」!?

筆者は、年間365日バーゲンセールをしている店を見たことがあります。おそらく、1,000円のものを2,000円に値上げしてから「今日はバーゲンだから半額」という張り紙をしているのでしょう。

 

客は商品の価値を正確には知りませんから、「2,000円の価値がある物を1,000円で買えるなら得だ」と考えて買う客もいるのでしょうが、もうひとつ、2,000円という数字を客の頭にインプットした上で、「バーゲンだから1,000円」と言えば、安いと感じる客がいるだろう、ということも期待しているのでしょう。

 

途上国に行くと、10ドルの商品を50ドルで売っているような店が多数あります。日本人旅行客が「40ドルに値切った」などと言って喜んで買うことも期待されているのでしょうが、地元の客はしっかり値切るのでしょう。それでも、一度50ドルという数字を客の頭にインプットした上で「10ドル」といえば、客が安いと感じて買う可能性が高まりそうです。

 

余談ですが、交渉術として「1ドルなら買う」といってみるべきだ、という人もいます。当然断られるわけですが、「それなら帰る」というと、「わかった。10ドルにするから買ってくれ」と言われるはずだ、というわけです。途上国に行く機会があれば、試してみてはいかがでしょうか。

「10個買って!」と迫られ、思わず購入した数は…

最後に、筆者の失敗談をご紹介しておきます。親戚の若者が訪ねて来たときのことです。「おかげさまで就職することができました」という挨拶のあとで「新入社員研修で、わが社の商品を知り合いに買っていただくというノルマを課せられています」というのです。

 

とくに必要ないものだったので「1個買ってください」といわれれば断ったかもしれません。「2個買ってください」と言われたら、仕方ないので1個だけ買ったかもしれません。しかし、いきなり「10個買ってください」といわれたので、ついうっかり2個買ってしまったのです。10という数字が頭にインプットされてしまい、「2個で勘弁してもらえるならありがたい」と考えてしまったのですね。

 

自分が情けなかったので、自分を慰める言葉を2つ考えました。「さすがに俺の親戚だけあって、優秀だ」「脳が錯覚したのは、俺が人類の進化の過程を順調に歩んでいる証拠だ」というものです(笑)。

 

今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。

 

筆者への取材、講演、原稿等のご相談は「ゴールドオンライン事務局」までお願いします。「THE GOLD ONLINE」トップページの下にある「お問い合わせ」からご連絡ください。

 

 

塚崎 公義

経済評論家

 

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