(※写真はイメージです/PIXTA)

飛行機が落ちる確率、宝くじが当選する確率…。本当はものすごく小さい確率のはずなのに「もしかしたら…」という気持ちになったこと、ありませんか? 人間の脳は、「非常に小さな確率は実際よりも大きく感じる」という錯覚を起こすのです。ここでは、興味深い「脳の錯覚」について見ていきましょう。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。

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非常に小さい確率は、実際より大きく感じる

同じ長さのバナナを重ねると、下のバナナが長く見える…といった目の錯覚は有名ですが、同様に脳も錯覚します。拙稿で「一度手に入れたものは手放したくない」という錯覚について記しましたが(『試着して、気に入らなければ返品OK…通販会社のビジネスモデルを成立させる「人間の脳」の不思議なしくみ』参照)、今回は「非常に小さな確率は実際よりも大きく感じる」という錯覚について取り上げてみたいと思います。

 

宝くじが当たりそうな気がする、自分が搭乗した飛行機が落ちそうな気がする、という感覚を覚えたことのある人は多いのではないでしょうか。

 

非常に小さい確率が実際よりも大きく感じられるということは、100%に近い確率は実際より小さく感じられるということになります。失敗の確率がゼロに近いならば、成功の確率は100%に近いのですが、実際には成功の確率は100%よりある程度小さいように感じられる、というわけです。

危険な仕事、何円支払われれば引き受ける?

《質問1》

「確率1万分の1で失明する、危険な仕事があります。何円支払えば引き受けてもらえますか?」

 

《質問2》

「あなたは眼の病気で、50%の確率で失明します。さて、確率1万分の1で失明する、危険な仕事があります。何円支払えば引き受けてもらえますか?」

 

このように聞かれたら、それぞれ何円と答えるでしょうか。

 

質問1には結構高い金額を回答した人でも、質問2には「50%と50.01%は誤差の範囲だから、小さい金額で構わない」と答えたかもしれませんね。それこそが錯覚なのです。

 

余談ですが、「あなたは眼の病気で、1万分の1の確率で失明します。病気を治す薬に何円までなら支払いますか」と聞かれたら、第1問と同じ金額を答えますか? 質問1より少ない金額を答える人も多いのではないでしょうか。なぜなら「いまよりよくなる喜びより、いまより悪くなる悲しみのほうを強く感じる」という、上記とはまた別の錯覚もあるからです。

宝くじの購入は「愚かな行為」とは言い切れない!?

宝くじの期待値はマイナスです(確率的には損な取引です)。そんなことは、宝くじ協会のホームページを見なくてもわかります。

 

筆者の好きな言葉は「相手の立場で考えよう」です。宝くじ協会が客から受け取った販売代金と同額の賞金を支払っているとしたら、宝くじの印刷費用や販売員の人件費だけ赤字になり、倒産してしまうでしょうから。

 

では、宝くじを買うのは愚かな行為なのでしょうか。筆者はそうは思いません。数百円で抽選まで「当たれ、当たれ」と念じることができるなら、五輪で日本チームを応援するより楽しいかもしれませんから。

 

五輪で日本チームを応援してもなにも儲からないわけですが、それで楽しめるなら、素晴らしいことです。金以外にも人生で重要なことは多数ありますから。宝くじも同様です。加えて、宝くじは「当たったらなにをしようかな」と考える楽しみも与えてくれます。

 

ここで重要なのは「当たりそうな気がする」という錯覚です。「どうせ当たらないだろうから」などと悟ってしまっては、ワクワク感が味わえませんから。錯覚のおかげで宝くじがよく売れて宝くじ協会が儲かり、買い手も錯覚のおかげでワクワク感が味わえるなら、素晴らしいことといえるかもしれませんね。

「保険への加入」も錯覚が後押し

保険も宝くじと同様に、期待値はマイナスです。したがって、不必要な保険には加入すべきでありません。日本人は「なんとなく安心だから」と多くの保険に入っている人も多いようなので、要注意です。もっとも、自動車を運転する場合などは、絶対保険が必要です。万が一大事故を起こしてしまったら大変ですから。

 

ここでも「錯覚」が保険の味方をします。大事故が起きる可能性が、錯覚によって実際より大きく感じられるため、「保険に加入しない不安」が不必要に大きく感じられるわけです。しかし、保険加入によって大きな不安が解消できるなら、保険料など安いものです。

 

実は、保険と宝くじは似ています。すごく乱暴に説明すると「あなたが死んだら保険金を払います」というのが保険で、「隣の村長が死んだらあなたに保険金を払います」というのが宝くじなのです。もっとも、実際にはこういった保険は売っていません。万が一にも殺人を誘発してしまう可能性があるといけないからです。

 

しかし「株価暴落保険」は存在します。「プットオプション」という名前の複雑な契約ですが、ここでは単に「株価が暴落したら保険金を払ってもらえる保険」だと考えておきましょう。

 

株を持っている人にとっては、文字通りの保険です。株価が暴落して損をしたら、その一部が保険金として受け取れるわけですから。一方で、株を持っていない人にとっては、宝くじです。株が暴落してもなにも損しないのに、保険金が受け取れるわけですから。つまり、株価暴落保険という同じ商品が、保険加入者の状況によって、保険にも宝くじにもなる、というわけですね。

 

今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。

 

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塚崎 公義

経済評論家

 

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