「お父さんを放って好き勝手するんじゃない、親不孝者!」
しかし、仕事と介護で「自由になる時間はほぼなし」という状況下、次第に春香さんは気持ちが追い詰められていきます。そんななか、春香さんの母親の病状が急変し、亡くなってしまいました。
「母はまるで〈私の限界〉をわかっていたかのようでした」
四十九日の法要を終えたあと、転機が訪れます。春香さんはまるで何かに突き動かされるように、身の回りのものだけバッグに放り込むと自宅を飛び出してしまったのです。父親には「仕事でしばらく家を空ける」とだけ伝えて、大学時代の友人宅に転がり込んだのでした。
「同じ学部でいちばん仲がよかった子で、いつも心配してくれていたんです。母の葬儀後、私が泣きながら電話すると〈とにかくうちにおいで!〉といって、2週間も居候させてくれたんです」
春香さんは、その友人のつてで会社そばのワンルームマンションを見つけ、人生初のひとり暮らしをスタートさせました。
「初めてひとりきりで迎えた夜、〈やっと自由になれたんだ〉って、泣いてしまいました。申し訳ないけれど、安堵の気持ちが強くて、母を失った悲しみはかすんでしまって…」
春香さんはマンションの契約をした日、父親に「会社近くでひとり暮らしをする」とLINEしましたが、父親から返信はありませんでした。
しかし、静かな生活は続きませんでした。
「ひとり暮らし開始から2週間後、父のすぐ上の伯母からLINEがあったんです。〈お父さんを放っておいてなんともないの? 自分だけ好き勝手するんじゃない、親不孝者!〉という、かなり激しい内容でした」
