「うちに来れば安心だよ」息子の言葉を信じて手放した部屋
「もう一人で暮らすのは心配だよ。うちに来れば安心だから」
長男の浩二さん(仮名・57歳)からそう言われたとき、節子さん(仮名・84歳)は迷いました。
節子さんは夫を亡くしてから約15年間、古い賃貸アパートで一人暮らしを続けていました。年金は月約9万円。家賃は4万円ほどで、預貯金は約50万円しかありません。
食費や光熱費を切り詰めれば生活できましたが、前年の冬に玄関先で転倒して以降、足腰に不安を感じるようになりました。幸い骨折はしなかったものの、買い物へ行くにも休みながら歩かなければなりません。
浩二さんは会社員で、妻の裕美さん(仮名・55歳)と高校生の娘の3人暮らし。節子さんとは電車で1時間ほど離れた場所に住んでいました。
「家賃も払わなくてよくなるし、食事も一緒にできる。何かあったときもすぐ気づけるよ」
その言葉に背中を押され、節子さんは住み慣れたアパートを解約。家具の大半を処分し、浩二さん宅の1階にある6畳の和室へ移りました。
最初の数週間は、にぎやかな暮らしを楽しんでいたといいます。
「夕食を一人で食べなくていいのが、うれしかったんです。孫とも毎日話せると思っていました」
ところが、家族にはそれぞれの生活がありました。浩二さんは帰宅が遅く、孫は学校や塾で不在。裕美さんも週5日働いており、夕食は家族全員が別々に食べる日も珍しくありません。
節子さんが昼間に話しかける相手はおらず、土地勘もないため、一人で外出することも減りました。
さらに同居から1ヵ月ほどたったころ、浩二さんから生活費の話を切り出されます。
「食費や光熱費も増えているから、毎月5万円くらい入れてもらえる?」
節子さんは驚きました。年金9万円から5万円を渡せば、通院費や日用品、携帯電話代に使えるお金はほとんど残りません。
それでも、「家賃を払うよりは安い」と自分に言い聞かせ、毎月5万円を渡すことにしました。
内閣府『令和7年版高齢社会白書』によると、65歳以上人口に占める一人暮らしの割合は、2025年に男性18.3%、女性25.4%と推計されています。高齢者の単身生活が珍しくなくなる一方、家族との同居が必ずしも本人の孤立や生活上の不安を解消するとは限りません。
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