(※写真はイメージです/PIXTA)

親の高齢化にともない、「実家」をめぐるトラブルが表面化しています。とりわけ深刻なのが、親と同居するきょうだいの存在です。介護や家事を一手に引き受けていた場合でも、法的には相続時に優遇されるとは限りません。「自分のほうが世話をしてきたのに…」「住んでいるのは自分なのに…」といった感情がぶつかり、家族関係が崩れるケースも少なくありません。

「俺がずっとこの家に住んでいるんだ」

東京都内の住宅街にある、築40年の一戸建て。85歳の女性・杉山和子さん(仮名)は、50代の次男・浩一さん(仮名)とふたり暮らしです。

 

「長男は結婚して遠方に家を持ちましたし、娘は家庭がある。浩一だけが、ずっと家にいてくれていました。仕事はしていないけど、買い物や通院の付き添いはしてくれます」

 

浩一さんは20代から断続的に引きこもり状態にあり、ほとんど働いたことがありません。収入はなく、生活費のすべてを和子さんの年金(月約20万円)に頼っていました。

 

そんなある日、遠方に住む長男が帰省し、実家の登記名義がすでに「浩一さん名義」になっていることを知ります。

 

「母さん、なんで勝手に…? これじゃ、俺たちは相続できないじゃないか」

 

実は、和子さんは2年前に、実家を浩一さんに生前贈与していました。「ずっと一緒に住んでくれているし、この先も頼るのは浩一だから」という思いからの決断でしたが、きょうだいには何も相談していませんでした。

 

「俺がこの家を守るんだから、文句言われる筋合いはない。兄貴たちに何がわかるんだよ。親の面倒も見てないくせに…」

 

感情的になる浩一さんに、長男も激高。親族を巻き込んだ話し合いは泥沼化していきます。

 

自宅の生前贈与には、いくつかのリスクがあります。

 

まず、年間110万円を超える贈与には贈与税が課されます。また、不動産を贈与する場合には、所有権移転登記にかかる登録免許税や、不動産取得税といった税金も必要です。これらは、相続時にはかからないものなので、タイミングによって税負担に大きな差が生まれることもあります。

 

さらに、将来的に介護施設に入所する際に、食費や居住費の一部を軽減する「補足給付(介護保険負担限度額認定制度)」を受けようとする際、過去の贈与が“資産を意図的に減らした”とみなされると、支給が認められない可能性があります。

 

そしてなにより注意したいのは、他の相続人との間に不公平感が残りやすい点です。生前に贈与を受けた財産は、相続時に「特別受益」として扱われ、遺産分割の際に持ち戻しの対象となることがあります。家族間で思わぬトラブルに発展することも珍しくありません。

 

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