「家族葬は?」「直葬は?」「散骨は…?」→「もういいッ!」
思いがけない宣言に、子どもたちは顔を見合わせます。最初に反応したのは長女の陽子さんでした。
「お父さん、それ、大変すぎるわよ。片付けだって誰がやるの? そんなにやりたいなら、企画書作ってプレゼンしてもらわなきゃ…」
半分冗談のつもりでしたが、滋さんは頬をふくらませます。
そこへ優一さんが畳みかけるように言いました。
「いまの流行は〈家族葬〉だよ。親しい人だけでひっそりと。シンプルでいいじゃない?」
「いやだ、お父さんはみんなを集めて、にぎやかに見送られたいんだ!」
滋さんは声を大きくして反論しました。
場をなごませようと、美香さんが話しかけます。
「お父さん、だったら私がピアノを演奏してあげる」
「美香は優しいなぁ。なんだよ、あいつらは冷たいことばっかり…」
すると、芳江さんが冷静に言いました。
「〈直葬〉って知ってる? 通夜・告別式なし、火葬だけ。超シンプルでいいじゃない。いま、選ぶ人が増えているんだって。新しいもの好きなお父さんにピッタリ」
滋さんの頬はますます膨らみますが、芳江さんは意に介しません。
「パーティーがいいなら、海にお骨をまくのはどう? みんなで船の上でバーベキューしながら、お父さんをパーッと…」
「もういいッ!」
滋さんは足元の猫を抱き上げ、プイッとソファのほうへ行ってしまいました。
「お父さんの好きなプリン、あるよ?」
「お父さんはいらない!」
「お父さん、そんなこといわないで…」
背を向けてソファに座る滋さんに、美香さんがスプーンと一緒にガラス容器に入ったプリンを差し出すと、滋さんはプリンを口に運び、「うん、うまい…」とつぶやいていました。
