金融業界における「仲介行為」の規律と実情
私自身がサラリーマン時代、大手投資銀行に勤務していた頃の体験からも、利益相反への厳しい姿勢を感じていました。証券会社や銀行などの金融機関では、金融庁の監督下にあり、M&A支援に際しては利益相反リスクの管理が厳格に求められます。
当時の私の職場では、仲介を行う場合にコンプライアンス部門への詳細な説明と稟議が必要で、実務上は非常に慎重に取り扱われていました。実際に私は、仲介的な業務を進めようとした際、上司同席のもとでコンプライアンス部から厳しく確認された経験があります。
ただし、ここで誤解してはならないのは、金融機関が仲介行為を一律に「禁止」されているわけではないという点です。適切な利益相反管理体制が構築されていれば、仲介的支援も一定の条件下で可能とされています。
M&A現場で見られる「仲介的機能」のリアルな実務形式上は仲介を行っていないとされるFA型やアドバイザー型の支援であっても、実務の中では売り手・買い手の間に入って調整する場面が多く見られます。たとえば、買い手と条件のすり合わせを行い、「この価格帯で合意できるかどうか」といった非公式の話し合いが行われることは珍しくありません。
そうしたプロセスを経るなかで、結果的に仲介的な役割を果たしているケースもあるのです。とはいえ、これは仲介型が唯一無二の手法だということではありません。M&Aの形態は非常に多様であり、FA型やセルサイド・バイサイドアドバイザー型といった他のスキームにも有効性があります。
したがって、案件の特性や当事者の意向に応じて、最適な支援形態を選ぶべきであり、「仲介的な機能が常に必要不可欠」とまで言い切ることは避けるべきです。
M&Aはゼロサムゲームではない:企業価値の向上がカギ
ここで強調しておきたいのは、M&Aがゼロサムゲームではないという構造です。売り手は、廃業時に少しでも現金回収できればよしとする立場にあることが多い一方で、買い手は引き継いだ事業を拡大させ、成長の果実を手にしたいという期待があります。
つまり、同じ企業でも見ている未来が異なり、価値の評価も自然と異なります。この違いを前提とすれば、「誰かの得は誰かの損」という単純な構図にはなりません。むしろ、M&Aによって創出された価値を分かち合うという考え方が現実的であり、双方が得をするWin-Winの構造が成り立つ余地が十分にあるのです。
