家族との対話も重視──「残す理由」を丁寧に伝える
このスキームを構築するうえで、野田さんが最も大切にしたのは「家族との対話」でした。「自分で苦労して残してきた財産を、なぜ半分も他人のために使うのか」と誤解を生まないように、家族には自分の思いを何度も伝えたといいます。
過去の体験、支援を受けた恩、そして「誰かの人生を変える力が自分にあるなら使いたい」という思いです。結果的に、家族も野田さんの考えに深く共感し、全面的に協力する姿勢を見せてくれました。特に2人の子どもは、「父の生き方を受け継ぎたい」と、財団の理事として関わることも検討するようになったということです。
次世代に“つなぐ”相続の形
相続というと、多くの方は「家族に財産を遺すこと」に意識が集中しがちです。しかし、野田さんのように、「家族」と「社会」の両方にバランスよく財産を承継するという選択肢も、これからの時代において重要になってくるでしょう。
財産はただ残すものではなく、「どう使うか」「どう遺すか」によって、その価値が決まります。
野田さんのように、実現したい明確な自分の意思があり、亡くなってからではなく、自分で財団設立や、遺言書の作成と家族との対話を通じて、思いをかたちにすることができれば、相続は「死後の手続き」ではなく、「人生の集大成」としての意味を持つようになります。
まとめ
・野田さんは8億円の財産のうち、4億円を家族に、4億円を公益財団法人を通じて学生支援に活用する計画を立てた。
・法人資産は毎年損金範囲内で寄付し、個人資産は生前寄付と遺贈を活用するスキーム。
・公益認定を得ることで非課税となり、節税効果も高まる。
・財団設立には時間と手続きがかかるため、早期の専門家相談と家族との共有が不可欠。
野田さんの相続準備は、家族にも社会にも「感謝と信頼」を届ける、新しい相続のかたちといえるでしょう。そうした野田さんに敬意を表するとともに思い描いたスキームが順調に実現するよう、引き続き、サポートする所存です。
曽根 惠子
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
相続実務士®
株式会社夢相続 代表取締役
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp)認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
