姉たちには1円も渡したくない
「私の財産は、兄に全部遺したい。姉たちには、1円も渡したくないんです」
そう語ったのは、70代半ばの女性・智子さんです。
配偶者も子どももいない智子さんは、相続人として兄1人と姉4人を持つ6人きょうだいの末っ子。昭和20年代生まれの彼女は、高度経済成長期の中で地方の定食屋に生まれ育ちました。家庭は裕福ではなく、両親が懸命に切り盛りする姿を見ながら、高校卒業と同時に上京して働き始めたといいます。
若いころから身一つで生活を切り開いてきた智子さん。結婚はせず、以後も1人暮らしを貫いてきました。それほど多くないお給料で生活する中で、自分が安心して生活するためにマンションを購入しています。すでにローンも完済。不安はありません。
それだけでなく預金は3,000万円を残しています。現在は年金暮らしのため、いままでどおりに慎ましく暮らす日々ですが、誰にも頼らず、自分で切り開いてきた人生は見事だと言えます。
そんな智子さんが「終活」を意識するようになったのは、図書館でふと手に取った1冊の本がきっかけでした。子どもがいない人のための終活の準備について書かれた本だったのですが、その本を読みながら、智子さんの中である“過去の記憶”が蘇りました。
相続でもめた「母の死」と「叔母の死」
智子さんの母親が亡くなったのは数年前のこと。その際の遺産相続をめぐって、姉たちの態度が豹変しました。
「兄と私は実家を離れて久しいので、お店を継いで、両親と同居してくれた長女や近くに住んで両親の介護に貢献してくれた姉たちには感謝はしていますが、相続の時の進め方に不信感を持ちました」と智子さん。
「同居してきた長女は父親のときも、あとで亡くなった母親のときも預金の内容を教えてくれませんでした。家を離れたものは相続放棄するものだと言わんばかりの高圧的な態度で取り付く島なし。兄も、私も、財産が欲しいということではなく、明らかにして説明してもらいたかったのです」
続いて起きたのが、智子さんの叔母(亡父の妹)の相続でした。子どものいなかった叔母が亡くなった際、法定相続人となったのは智子さんたち兄弟姉妹で、亡き叔父の子2人も同様に代襲相続人で、合計8人が相続人となりました。
「叔母は実家のすぐ近くに住んでいたので、老後はやはり長女が預金などの管理をしており、亡くなったときに、また長女が明細を出さなかったため、次女、三女が家裁に申し立て争いになったのです。きょうだいがお金のことで争う姿を見て、恥ずかしくなり、兄と自分は叔母の財産は放棄しました」
相続がきっかけで姉たちの本性を見たと感じた智子さんは、「もう欲の深い姉たちに、自分の財産を託す気にはなれないし、老後も頼りたくない」と心に決めたのです。
財産は兄にすべて。姉には一切渡したくない
「実は、兄には若い頃にすごく助けられたんです」と智子さんは続けました。
智子さんが20代で上京して苦労していた頃、当時サラリーマンだった兄が、生活費を何度か支援してくれたといいます。
「だから、私の財産は兄に全部渡したい。姉たちには一切渡したくない。むしろ葬儀にも呼びたくないと思っているんです」
そう言い切る智子さんの目には迷いがありませんでした。
ただ、法律上は智子さんのように配偶者も子もいない場合、「兄弟姉妹」が法定相続人になります。つまり何もしなければ、姉たちにも法的に相続権が発生してしまうのです。
「それは嫌です。私は自分の意思で遺したい」
その強い気持ちを実現するため、私たちは2つの対策を提案しました。
