私が全部やっているのに…「母名義の空き店舗」の収入は誰のもの?〈40代女性〉が税理士の答えに絶句したワケ【相続の専門家が解説】

私が全部やっているのに…「母名義の空き店舗」の収入は誰のもの?〈40代女性〉が税理士の答えに絶句したワケ【相続の専門家が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

「名義は母のまま。でも、実際に動くのは私……」父の遺言により全財産を相続した母。今は空き家になった貸店舗の管理を、娘のエリカさん(40代)が引き継ごうとしましたが、税理士に「収入は名義人のもの」と言われてしまいました。親の不動産で子が賃貸事業をするにはどうすべきか? 相続実務士・曽根惠子氏(株式会社夢相続 代表取締役)が解説します。

遺言書があり全財産を相続

エリカさん(40代)から相談がありました。エリカさんは70代の母親と母親名義のマンションで同居しています。

 

5年前に父親が亡くなったとき、父親の財産は母親が相続しました。父親は体調を崩したときに遺言書を作成していて、「財産はすべて配偶者に相続させる」という内容でした。2人の兄も、エリカさんもそれについての異論はありませんでした。

 

よって母親は自宅マンションと駐車場と貸店舗と預金を保有しています。財産評価は合わせて5,000万円程で、相続税の申告は必要なかったと言います。

 

固定資産税がかかるだけの空き家

貸店舗は父親が別荘感覚で購入したもので、緑が豊かな山間にあります。1階が貸店舗、2階、3階が住居で、1、2階を貸し、3階は別荘として使っていました。

 

父親が元気な頃は家族で出かけたりしていましたが、父親が60代になって体調が思わしくなくなり、行くことも叶わなくなったのでした。

 

1階はカフェで、2階も住まいとして借りてくれていましたので、1、2階の家賃が入っていましたが、賃借人が高齢となり、昨年、お店を辞めて、転居するということで退去してしまい、現在は空き家になっています。それなのに固定資産税が5万5,000円かかっているといいます。

 

税理士に相談するとNOと言われた

母親は3年前に、自宅で転倒して大腿骨を骨折、入院、手術をしました。その後、リハビリに励み、だいぶ回復はしたものの、要介護3となりました。現在は自宅マンションで生活できていますが、以前のように出歩くことが難しくなり、貸店舗も退去したまま、次のテナントや入居者の募集ができていないといいます。

 

こうした母親の様子では、賃貸事業はエリカさんがサポートしないと継続が難しいため、これからは自分が主となり、貸店舗の募集をしようと考えました。それなら自分の収入としていいかと税理士に相談したところ、母親の不動産なので母親が確定申告をしないといけないと言われたのです。

 

そこで、「自分で申告をすることはできないのでしょうか?」というのがエリカさんのご相談でした。

国税庁の税務相談室

念のため、国税庁の税務相談室にも問い合わせてみるようにお勧めしましたところ、税理士と同じ回答でした。(参考:税についての相談窓口|国税庁

1.不動産所得は「所有者に帰属する」のが原則
 税務上、賃料収入は原則として不動産の登記名義人=所有者に帰属します。

2.名義借りでの事業は認められない
 名義は親のままで、子が賃貸管理や募集、契約などを行っても、それだけでは「子の事業」とは見なされません。
 → 所有者が親である以上、収入も親に帰属します。

3.親が確定申告すべき
 賃料収入や必要経費(修繕費・管理費など)を計上し、親が不動産所得として確定申告する必要があります。

しかし、実務的には、子どもが親の不動産を無償で借りている使用貸借は多くあります。親の土地に子どもが自宅を建てて住んでいることは一般的ですし、親名義の不動産で子どもが賃貸事業をしていることもよくあります。

 

よって税務署に否認されない方法をアドバイスしました。

自分の事業で確定申告

親名義の住宅を子どもが無償で借りて賃貸事業を行った場合、その不動産の所有者である親に賃料収入が帰属すると考えられるため、親がその賃料収入を申告し、所得税を納める必要があります。

 

そのため、子どもが賃貸事業をしている実態を作れば、子どもが家賃を受け取って確定申告をすることで認められます。

 

  • 賃貸事業の収益や支出が子の銀行口座で完結している
  • 親子間の賃貸借契約を締結し、子が親に地代を支払っている(この場合も親に地代収入がある)


建物の贈与を受ける方法がある

税務署の指摘を避けるためには、「親が建物だけを子どもに贈与する」方法があります。そうすることで建物に対する家賃は子どもの収入となり、子どもが確定申告をすればいいのです。無償で貸している「使用貸借」は認められていますので、親に地代を払う必要もありません。

1.【建物の贈与で収入帰属が明確になる】

  • 不動産収入は登記名義人に帰属します。
  • 建物だけでも名義が子どもになれば、建物の使用に伴う賃料収入は子どもに帰属し、子どもの事業所得/不動産所得として確定申告します。

2.【土地を親が所有し、無償で貸す(使用貸借)の扱い】

  • 土地を親から無償で借りて使用するのは「使用貸借」契約にあたります。
  • 使用貸借の場合、親に地代を払う必要はありません
  • この使用貸借の提供に対して贈与税は課されません(ただし、「相続開始前3年以内に解除される」などの場合は注意)。

3.【注意点】

  • 土地と建物の所有者が異なる場合は、建物が借地権付き建物となり得ます。
  • 将来的に相続税の評価に影響します。たとえば、使用貸借の土地には「借地権評価がつかない(=相続税評価が下がらない)」とされるのが通例。

建物の贈与時には贈与税の申告と納税が必要になる可能性があります(評価額による)。

まとめ

項目

内容

建物の名義

子どもに変更(贈与)

賃料収入の帰属

子ども(確定申告が必要)

土地の名義

親のまま

土地使用の取り扱い

使用貸借(無償でOK)

親に地代が必要か? 

不要(無償使用で問題なし)

贈与税

建物贈与時に発生の可能性あり

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