夫の定年で事態はエスカレート…「もう限界」
「もともと細かい人でしたが、さらに口うるさくなって……」
まだ働けると自主的にパートを続ける美代子さんに対して、週7日が完全に自由になった夫。
時間はあるのに家事や買い物は相変わらず美代子さん任せ、その癖、口だけは出してきます。買い物から帰ると「また余計なものを買ってきたな」と言い、エアコンをつければ「電気代がもったいない、消すぞ」と言い放ちました。
家に一緒にいる時間が長くなり、ストレスはこれまでと比べ物にならないほど多くなってしまったといいます。
そんな中、体調を崩して寝込んだ美代子さん。布団に伏せる中、「自分の人生は、こんな風に終わるのか」そう考えて、涙したといいます。
そして、これまで伏せてきた自分の気持ちをはっきりと夫に言うという、大きな決断をします。
「あなたのお金に対する細かさに耐えられない」「一緒に暮らすのが苦しい」……正直にそう告げました。夫は「ケチじゃなくて節約だからね」「そのおかげで今こうやって暮らしていられる」と早口でまくしたてましたが、美代子さんのこれまでに見せたことのない表情にただ事ではないと察したようでした。
美代子さんは改めて感謝の気持ちとともに、ずっと我慢してきたこと、一度離れて暮らしたいことを伝えました。
大騒ぎになるかと思いきや、その後、意外にも夫は静かに受け入れました。「少しの間ひとりで暮らして満足するなら、それもいいんじゃない」――話し合いは淡々と進み、金銭面でも「いったん貯金は半分ずつにしようか」とすんなり提案してきたのも驚きでした。
「この年で、まさかこんな風に人生が転がるなんてね。大きな波風なく歩んできた私にとって、別居は人生最大の決断でした」
こうして離婚届は出さず、事実上の別居生活が始まりました。
築36年のアパートで「今が人生でいちばん自由、幸せ」
美代子さんは築36年の古びたアパートでひとり暮らしを始めました。家賃は5万円。また、パート先は65歳を超えても仕事ができる環境で、週3日勤務を継続。年金と合わせると、収入は月13万円ほどです。
世間的に見れば、余裕がある生活とは言えないのかもしれません。それでも、美代子さんの顔には、以前にはなかった明るい笑顔が浮かんでいます。
「子どもたちにも心配されましたけど、一人で十分暮らせていますよ。部屋はちょっと古いけれど、白っぽいインテリアにして明るく見せるのも楽しい。何より、誰にも文句を言われずに自分のためにお金と時間を使える。それがこんなに幸せなんて……」
ケーキを買って、家で大好きな韓国ドラマを見ながらゆっくり食べる。家事も好きな時に自分の分だけやればいい。誰に気を使う必要のない生活、それだけのことが心を満たしてくれるといいます。
