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部屋から滲みでる、その人生
不動産業に20年以上携わり、数多くの孤独死物件を扱ってきた筆者は、次第に一つの感覚を持つようになった。
部屋に入れば、その人の人生が滲みでる。
借金、精神疾患、家族不和──苦しみのなかにあった人の部屋は乱れていることが多い。乱れた部屋は、心の乱れを映し出す鏡のようだ。だが、彼の部屋は違った。整った部屋は、整った心を映しているようだった。経済的に豊かだったわけではない。だが、静かで安定した普通の生活がそこにあった。
そもそも、自宅で亡くなること自体が異常なのだろうか? かつては、それが普通だった。1951年までは、日本人の8割以上が自宅で亡くなっていた(※厚生労働省統計)。しかし1976年に医療機関で亡くなる人は、自宅で死亡する者の割合を上回り、2019年には、自宅で亡くなる人は、13.6%となった(※国土交通省)。
以前は、家族と同居し、看取られながら穏やかに最期を迎えた。むろん、自宅で介護を担う側には相当な負担もあっただろう。現代は医療体制や家族構成の変化で、2019年には、自宅死はわずか13.6%台まで減った(国土交通省)。しかし近年では状況が少しずつ変わりつつある。「できるなら自宅で最期を迎えたい」と望む人は増えつつあり、医療現場でも在宅医療・在宅看取りの体制づくりが少しずつ整備され始めている。
実際、自宅で亡くなるケースも微増傾向に転じてきた。高齢化と医療費の増大が進むなか、限られた医療資源を守るためにも、自宅での看取りを社会全体で支える仕組みづくりが求められている。
「病院で亡くなるのが当たり前」という価値観は、少しずつ揺らぎはじめた。むしろこれからは、自宅で静かに人生を終えることを「新しい普通」として社会全体が自然に受け入れていく時代なのかもしれない。
孤独死、孤立死──現代ではすぐに「異常」「悲惨」というラベルが貼られる。だが備えと支えがあれば、それは進化した「普通の最期」と呼んでもよいのではないだろうか。
生前の「備え」がカギ
こうした現場に立ち会うと、改めて生前の備えの大切さを痛感する。エンディングノートは「死んだあとの手続き整理のため」だけのものではない。実は、「生きているうちの安心」のためにも役立つのだ。エンディングノートの本質は、自分の人生を他人にわかりやすく渡す説明書なのだと思う。それは時に命を守り、時に周囲を守り、時に遺産を守ってくれる。
備えはエンディングノートだけに限らない。孤独死が「不幸」かどうかを決めるのは、亡くなった事実でなく、生きているうちにどれだけ備えが整っていたか、ではないだろうか。現代では、さまざまな形で「孤独死を豊かに変えていく仕組み」が存在している。たとえば下記のような仕組みだ。
・見守りサービスの利用
自治体/・民間企業が提供する定期安否確認やセンサー型の見守りシステム。
倒れたときの早期発見やSOS発信に直結する。
・緩やかな定期連絡の仕組み作り
親戚や友人、福祉職員などと、無理のない頻度で定期的にやりとりを続ける。
・かかりつけ医や在宅医療体制との連携
万一の病気/発症時に備え、医療情報を共有しておく。
・財産や契約の事前整理
通帳、証券、不動産、クレジットカード、デジタル遺産などの情報を整理し、信 頼できる人に伝えておく。
・死後事務委任契約の活用
相続人がいない場合、死後の葬儀/納骨/行政手続きなどを第三者に委任する仕組み。
・任意後見制度や家族信託の活用
判断能力低下や万一のときに備えて、法的な支援体制を整えておく。
・遺言書の作成
特に相続人がいないおひとり様の場合、遺言書の有無は極めて重要になる。
誰に財産を承継させるのか、死後の整理は誰に任せるのか、遺言書があれば、親族、関係者、裁判所、弁護士すべての負担が大きく軽減される。遺言がなければ、今回のように相続財産清算人を選任し、財産整理を裁判所の管理下で進める必要が出てくる。
