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おひとり様女性の死、残された「最高の家」
80代の女性が、静かにその生涯を閉じた。結婚はせず、子どももいない、いわゆる“おひとり様”。彼女が最期の半年を過ごした病院で心を支えていたのは、半世紀以上をともにした一軒の家だった。
築50年を超える木造住宅。床はフカフカに沈み、雨漏りの跡も残る。外からみれば老朽化した古家にすぎない。だが彼女にとっては「最高の家」だった。
尊敬する両親と暮らし、40歳のときに親孝行の結晶として建てた自宅。廊下を歩けば、厳格な父の声が聞こえてくる気がした。台所には、家族の食卓を守った母の背中がいまも残っていた。この家は、彼女にとって人生そのもの。
家を相続したのは、たった一人の肉親──姪だった。
姪にとっての「居場所」
姪にとっても、叔母の家は特別だった。夏休みに遊びに行き、夜遅くまで話を聞いてもらった。進路に迷ったとき、両親にはいえない悩みを叔母が受け止めてくれた。
「おばさんの家は、私にとっても特別な居場所」
残された会話
叔母が亡くなる少し前、病院のベッドで交わした会話が忘れられない。
「私が死んだら、この家はどうするの?」
「大事に残せればいいけど、維持するのは大変だよね」
「そうね。でも、あなたが決めるなら、私はそれで安心よ」
まるで遺言のように胸に響いた。叔母から「任せる」といわれたことが、信頼の証であると同時に、重い責任としてのしかかる。
思い出と現実の狭間で
叔母が亡くなったあと、姪は何度も家を訪れた。柱を撫で、障子に触れ、庭に立っては思い出が溢れ、涙がこぼれる。
「本当に壊していいのだろうか。残すことが一番の供養なのではないか」
しかし、老朽化は深刻で、防犯や近隣への影響も無視できない。40代の姪には自分の家庭がある。我が子の教育費、夫とともに支払う住宅ローンの支払いで家計は火の車。維持費を負担し続けることは現実的ではなかった。
守りたい気持ちと、手放さねばならない現実の狭間で、深く葛藤した。
