譲渡税の申告は終えたはずなのに…不動産を売却した50代男性。税務署からの「まさかの呼び出し」に税理士も驚愕したワケ【相続の専門家が解説】

譲渡税の申告は終えたはずなのに…不動産を売却した50代男性。税務署からの「まさかの呼び出し」に税理士も驚愕したワケ【相続の専門家が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢の父と同居していた二世帯住宅を売却し、譲渡所得の申告も税理士に任せて万全のつもりだった青山さん(50代)。ところが、税務署から「内容確認のため出向いてほしい」との連絡が入りました。焦る青山さんを待っていたのは、「居住実態の証明」と「固定資産税の精算」に関する予想外の指摘。しかも、その対応を誤ると、あとから課税や追徴の対象になってしまうリスクも……。税理士さえ一度は見解を誤った、固定資産税の「精算金」問題の落とし穴とは? そして、売主が損をしないために今できる対策とは--。相続実務士・曽根惠子氏(株式会社夢相続 代表取締役)が解説します。

固定資産税の精算金は譲渡所得になる?

税務署は固定資産税の精算金の申告が漏れているので、修正申告をするようにという指摘をしてきたのです。

 

その報告を受けたとき、「固定資産税の預り金で、収入ではないので、修正申告は理不尽で違和感がある」と青山さんにご連絡しました。

 

すると、同席した税理士も、税務署を出てから、「普通はこんな指摘はないです。多分額が大きいからですかね? 固定資産税については経費計上をしている場合、戻してもらったら収入とする必要があります。事業に関係のない何ら経費計上されていない固定資産税は単なる一般の支払いですし、収入は単なる戻りです。税務署にその旨を伝えようと思います」と話ししていました。

 

税理士も勘違いする  ほどなく訂正

しかし、ほどなく税理士から、訂正のメールがきました。

 

「私が勘違いをしておりました。固定資産税は1月1日時点における不動産の所有者に対して賦課されるものです。つまり年の途中で所有者が移転したとしても買主が負担するものではなく未経過固定資産税に相当するものを支払ったとしてもそれは売主が1年を単位として納税義務を負う固定資産税について、買主がこれを負担することなくその不動産を所有する期間があるという状況を調整するために行われるものと言えます。であるとすれば、この未経過固定資産税に相当する額は、実質的には不動産の取得対価の一部と解されます。調査官の指摘は妥当であると考えます。間違った見解を述べて申し訳ありません」


固定資産税の精算金は「譲渡所得」になる

【結論】 固定資産税の精算金は「譲渡所得」に含まれます。


よって、譲渡所得として課税されます(=譲渡税の対象になります)。

 

【理由・根拠】土地などの不動産を売却する際、売主と買主の間で固定資産税を「引渡日を基準に按分」して、日割りで精算するのが一般的です。

  • この精算金は形式的には「固定資産税の分担金」のように見えますが、実質的には「譲渡対価の一部」とみなされます。

そのため、税務上は「譲渡代金に含まれる金額」として扱われ、譲渡所得の金額に加算されるのが正しい処理です。

 

【雑収入ではない理由】

  • 「雑収入」としてしまうと、譲渡所得ではなく総合課税の対象になってしまい、税率や損益通算の取扱いが変わります。
  • しかし、これは「売却にともなって生じた受取金」なので、売却代金の一部として一体で計算するのが適正です。

 

参考:国税庁の見解(要旨) 固定資産税等の精算金は、実質的には譲渡対価の一部であり、譲渡所得の計算に含める。

補足:一方で、売主が納めた固定資産税は、譲渡所得の「取得費」や「譲渡費用」にはなりません。売却の年の「必要経費(経常的な経費)」として所得税の他の区分で処理される場合がありますが、精算金との直接的な相殺はされません。

 

売主が持ち出しにならない方法はあるか?

固定資産税の「精算金」で売主の持ち出しを防ぐ=「買主から受け取る精算金」が「課税所得」に含まれて税負担が増える一方、「売主が払った税金」は譲渡費用にもできないため、損になる構造を回避したい。

 

対応策①:売買契約書に「精算金なし」と明記

あらかじめ固定資産税の精算をしない旨を契約に明記する。

例:「本件不動産に係る固定資産税・都市計画税は、売主が全額負担するものとし、精算は行わない。」

 

メリット

  • 買主から受け取る金銭がないため、課税対象が増えない(=税負担増を防げる)。
  • 精算金をめぐる処理や申告の手間も減る。

デメリット

  • 年度途中の引渡しでは「実際に使ってない期間分の税」も売主が負担することになり、損した気分になりがち。

 

対応策②:売買価格に精算金相当分を含める(明示しない)

固定資産税の精算金を別途の金銭ではなく売買価格に含めて一括表示する。買主と合意の上で、精算金の支払いそのものを省略し、実質的には価格に反映させておく。

例:「固定資産税相当額は売買代金に含めるものとし、別途精算しない」

 

メリット

  • 課税対象はもともと売買代金に含まれているため、税務上の問題が生じない。
  • 表面上、売主が固定資産税を受け取っていないので、「課税される金額が増える」ことを回避。

注意点

  • 不動産業者・司法書士などに契約内容の整合性を確認してもらうこと。

 

対応策:課税されることを前提に価格調整をしておく

 

精算金が課税されることを見越し、精算金相当額に対してかかる譲渡税額を加味して売買価格を上乗せする。

例:精算金が10万円 → その20%=約2万円が譲渡税としてかかるなら、売買価格を2万円上乗せする。

 

メリット

  • 精算金による実質的な持ち出しを防げる。

デメリット

  • 価格交渉が複雑になる。特に個人間取引では説明が必要。

【まとめ】

方法

精算金の受取 

税務処理

売主の持ち出しリスク

① 精算しない

なし

なし

◯(完全回避)

② 売買代金に含める

表示上なし

売買代金の一部として課税

◯(回避)

③ 精算金分を価格に転嫁

あり

譲渡所得に加算

△(補填で対処)

 

おすすめ:実務上は 「②売買代金に含める」方式が最も自然で、買主側とのトラブルも少なく、税務的にも問題がありません。不動産会社に「精算金を別立てにせず、売買代金に含めて」と依頼すれば対応可能です。

 

固定資産税の精算は要注意

改めて確認してみると、税理士さんのメールのとおりで、固定資産税の精算金は税務署は売買対価として課税するとのことでした。

 

売買契約上、固定資産課税の精算は定番ですので、たいていが精算金を受け取っていますが、課税される認識がなく、ほとんどの方は申告しておらずでスルーされているのが現状かと思われます。税理士もそうした認識ですので、グレーゾーンかもしれません。

 

今回、金額が大きい、早めの申告だったなどで目立ったのかもしれませんが、受け取った額に課税はされるが、支払った金額を原価参入できないという理不尽さが残ります。今後はどういう精算の方法にするかよく検討して、あとから追徴されない工夫が必要だと痛感した次第です。

 

 

 

 

曽根 惠子
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
相続実務士®

株式会社夢相続 代表取締役

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp)認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

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