不均衡是正や生産回帰の起点は過剰債務にある
しかし、上記3つをみていただくと、上記1点目の「これ以上、お金を借りられなくなった」からこそ、2点目や3点目の「訴え」が米国から起きていることがわかります。
ついでにいえば、上記1点目の「これ以上、お金を借りられなくなったから、もうあなたからお金は借りません」というのは、(2点目や3点目が当該国にどのような影響を与えるにせよ)一国による選択の自由、主権の問題とも考えられなくもありません。
いずれにせよ、上記1点目が起点であるならば、ベッセント米財務長官を筆頭に、トランプ政権幹部の問題意識はあくまで貿易の「勝ち負け」というよりも、米国の過剰債務にありそうです。
冷静に考えると、トランプ政権がなにか新しいことを始めようとしているようにはみえません。これまでの政権と米国の貿易相手国が向き合ってこなかった過剰債務の問題に正面から向き合おうとしているだけにみえます。
後述しますが、多くの問題のなかで一点、これを阻む主要な問題があるとすれば、1. どれだけ多くの米国の家計が「米国には過剰債務の問題がある」と考えているか、あるいは、2. 実際にそれを減らす痛みを許容するか、です。それは、米国の建国以来の伝統的な宗教的・倫理的価値観とも関連します。また、危機を「危機」と認識するには、「お尻に火が付く」必要がある、言い換えれば、危機が誰の目にもみえる必要があることがほとんどです。
一国の貿易赤字=他国からの借り入れ
前節1点目の「他国からの借り入れ」について考えてみます。国民経済計算の恒等式を思い出すと、一国の貿易赤字は他国からの借り入れに等しくなります。すなわち、米国が貿易赤字を減らすということは、米国が他国からの借り入れを減らすことに等しくなります。
現在、米国の貿易赤字はGDP比4%です。
これを非常に簡単にたとえると、米国は「100つくって、104食べたい」といっているのと同じです。4の消費はどこから来るか。それは他国からの輸入で賄います。これが米国の貿易赤字に相当します。
他国は(この逆ですから、たとえば)「104つくるけど、100しか食べない」わけです。余った4はどうするか。米国に輸出して消費をしてもらいます。
ここで問題があります。それは、米国には他国から輸入分の4を買うお金がないということです。なぜなら、米国は100つくるから、米国の所得も100です。よって、米国は「食べたい総量分の104」を買うほどのお金はありません。
そこで米国はどうするか? 他国に金額4の借用書を書いて渡すことで、つまり、借金によって、他国から輸入分の4を買い、これを消費します。
「どうすれば米国は貿易赤字を減らせるか」を考えると、1. 米国が生産を増やす、2. 米国が消費を減らす、あるいは、3. その両方が必要であることがわかります。
ここまでをまとめると、
・米国は他国から借金をして他国のモノを買っている。
・他国は米国に借金をさせて自分たちのモノを米国に消費させている。
この状態が過去55年続いているから、米国の債務は増える一方です。また毎期赤字ですから、過去に借りた分の利息もまた、新たな借り入れに頼らざるを得ません。
実際、ベッセント財務長官も4月23日の国際金融協会(IIF)での講演で次のように述べています。
・「米国が製造業に回帰することは(≒米国が米国への投資を増やして、生産を拡大することは)、消費を減らすことに等しい」
・「米国政府の歳入には問題はない。歳出に問題がある」

