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特殊清掃の現実
孤独死などで遺体の発見が遅れると、体液や血液が床材や壁紙の奥深くまで浸透する。それは木材の繊維を蝕み、コンクリートの隙間に入り込み、床下の基礎にまで達することもある。
こうなると、表面的な清掃や消毒では到底太刀打ちできない。時間の経過とともに腐敗は進み、強烈な悪臭や害虫発生の温床となる。 必要なのは清掃ではなく、汚染された建材の除去だ。
壁紙やカーテン、布製ソファは臭いを吸着しやすく、二次的な悪臭の原因となる。特に面積の広い壁紙は臭いが再発しやすいため、この物件でもすべての壁紙が剥がされていたのだ。場合によってはボードも撤去するかどうか。費用面から見ても、薬剤による一時的な処置より、初めから汚染箇所を交換するほうが結果的に安く、早く解決できることが多い。今回は交換までは行わず、必要最低限の根本原因を排除することで、特殊清掃は完了していた。
床材や壁紙を剥がすもう一つの重要な理由は、その下にある構造物の状態確認だ。床板を剥がして初めて、目に見えない汚染の広がりが判明することも少なくない。汚染が下地材にまで達していれば、表面の建材交換だけでは不十分で、下地自体の清掃、消毒、場合によっては封じ込め塗装や削り取りを行って、再度補修するといった処置が必要になる。
さらに、オゾン脱臭機も投入される。強力な酸化力を持つオゾン(O₃)が、遺体の腐敗による死臭や空気中の細菌・ウイルスを根本から分解・除去するのだ。
保証なし、虫の死骸もそのまま…「入札売却」という選択
相続財産清算人は、財産を管理している立場だ。この物件に住んだこともなく、現地調査で一度訪れる程度。物件について多くを語ることはできず、当然、物件になにかトラブルがあったとしても、なにも保証もできない。いまの状況を知らないし、財源がないのだ。
家庭裁判所の管轄で手続きは進められるため、相続財産清算人である売主側に不利な契約条件を許可しない。
つまり、「現況」で買い手を探すしかない。壁紙は剥がれ、床も一部むき出し、虫の死骸もそのまま。窓枠のビニールテープを剥がせばベトベトになるだろう。そしてなにより、「所有者が室内で亡くなった」という事実。
これらを受け入れてくれる購入者を探すことになる。
一般の個人客に、このような物件を紹介するのは難しい。部屋の惨状を目の当たりにして購入意欲を維持できる人は限られる。住宅ローンの審査落ちで契約解除、といった事態も避けたい。そして、「売主は一切保証しない」という条件に納得してもらうのも容易ではない。
だから、買い手は必然的に不動産業者となる。
購入検討者は、このありのままの状態で室内を確認し、価格を算出して、入札に参加する。期間は3週間。内覧日は、不動産業者の休みが多い、水曜日を除く、3日間に設定し、筆者が立ち会い、案内する。
競売をイメージするかもしれないが、今回は任意売却のための入札。競売と違い、室内を直接確認できるのが大きなポイントだ。
