税務的な観点
民法では、遺留分の侵害があった場合、侵害された相続人は現物の返還ではなく金銭による「価額弁償」を請求できます。この価額弁償が相続を契機とした法的権利の行使である以上、税務上は形式にかかわらず、相続財産の一部を取得したものと解釈されます。
つまり、和解により得た金銭が「遺留分の補償」である限り、相続税の課税対象となるのが原則です。
納税者の主張
Cさんは、次のように主張しました。
- Bさんから受け取った650万円は、あくまでBさん自身の資金によるもので、相続財産から分けてもらったものではない。
- これは民事訴訟上の和解による合意に基づくもので、相続や遺贈による取得には該当しない。賠償的な性質にすぎず、課税対象とすべきではない。
税務署の主張
税務署は和解調書に記載された文言に注目し、「遺留分の価額弁償として650万円を支払う」と明記されている点を重視しました。
また、民法の制度趣旨から見ても、この支払いは遺留分侵害に対する法的な「代替履行」であり、金銭であっても本質的には相続財産の一部とみなされると反論しました。
審判所の判断
国税不服審判所は、税務署の主張を支持し、次のように判断しました。
- 和解調書に「遺留分の価額弁償として支払う」と記載されており、この金銭の取得が遺留分に基づく権利の行使であることは明白である。
- 遺留分の現物返還が本来の権利行使の形であり、金銭による弁償もその代替であることから、税法上も「相続による取得財産」として扱うべきである。
以上から、Cさんが取得した650万円は相続税の課税対象に含まれると結論づけられました。
和解金でも申告を怠ると課税に
この事例は、相続人間の和解によって支払われた金銭であっても、それが遺留分に基づく価額弁償である限り、「相続または遺贈による取得財産」として相続税の課税対象となることを示しています。
相続税法においては、「どのように財産を受け取ったか」ではなく、「なぜその財産を受け取ったのか」という法的な背景が重要視されます。
「和解金だから」「好意での支払いだから」といった認識だけで申告を怠ると、思わぬ更正処分を受けるおそれがあります。相続の手続きでは、法的な整理とともに税務的な整理までしっかりと行うことが大切です。
高橋 創
税理士
注目のセミナー情報
【海外不動産】12月18日(木)開催
【モンゴル不動産セミナー】
坪単価70万円は東南アジアの半額!!
世界屈指レアアース産出国の都心で600万円台から購入可能な新築マンション
【事業投資】12月20日(土)開催
東京・門前仲町、誰もが知る「超大手ホテルグループ」1階に出店!
飲食店の「プチオーナー」になる…初心者も参加可能な、飲食店経営ビジネスの新しいカタチとは?
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■月22万円もらえるはずが…65歳・元会社員夫婦「年金ルール」知らず、想定外の年金減額「何かの間違いでは?」
■「もはや無法地帯」2億円・港区の超高級タワマンで起きている異変…世帯年収2000万円の男性が〈豊洲タワマンからの転居〉を大後悔するワケ
■「NISAで1,300万円消えた…。」銀行員のアドバイスで、退職金運用を始めた“年金25万円の60代夫婦”…年金に上乗せでゆとりの老後のはずが、一転、破産危機【FPが解説】
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】
