あいつの世話を頼む…伯父から「3,600万円の遺産」といとこの世話を託された〈55歳男性〉。後見人のまさかの大暴走に呆然としたワケ【相続の専門家が解説】

あいつの世話を頼む…伯父から「3,600万円の遺産」といとこの世話を託された〈55歳男性〉。後見人のまさかの大暴走に呆然としたワケ【相続の専門家が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

55歳の大輔さんの伯父の願いは「自宅を売って、重度障がいのある息子の入院費にあててほしい」というものでした。しかし、相続人であるその息子は意思の疎通が困難で、手続きには成年後見人の選任が必要でした。親族である大輔さんは伯父の遺志を叶えようと奔走しますが、家庭裁判所が選んだ後見人の“想定外の対応”によって、相続は停滞し、大きな壁にぶつかることになります。今回は、「成年後見人の落とし穴」について、相続実務士の曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が解説します。

成年後見人の解任について

成年後見人を解任する理由は、民法や家庭裁判所の実務に基づき、以下のようなケースが挙げられます。特に「被後見人の利益を損なう行為」や「職務の不適切な遂行」は、解任理由としてよく取り上げられます。

 

成年後見人を解任できる主な理由

  1. 職務を怠っている(放置・不作為)
  • 相続手続きを進めるべきなのに、何もしない・必要な判断をしない。
  • 財産の管理・報告義務を果たしていない。
  • 被後見人の生活や財産に明らかな支障をきたしている。

 

  1. 財産の不適切な管理
  • 被後見人の財産を勝手に使っている、私的流用している。
  • 投機的な運用や、明らかに不利益な契約を締結している。
  • 財産の管理状況に不透明な点が多く、説明責任を果たしていない。

 

  1. 家庭裁判所の指示に従わない
  • 裁判所からの報告命令・許可申請を無視している。
  • 定期報告書の未提出、虚偽記載がある。
  • 裁判所との連絡が取れない、協力姿勢が見られない。

 

  1. 利益相反行為をしている
  • 自身や家族の利益を優先するような行動をしている。
  • 相続人の一人として、自らの相続分を優先して被後見人の不利益になるような対応を取っている。

 

  1. 被後見人の利益を著しく害している
  • 相続に必要な手続きを妨げており、被後見人が正当な権利(相続分・遺産取得など)を行使できない。
  • 他の相続人との関係を悪化させ、法的・経済的損失を拡大させている。

 

  1. 成年後見人としての適格性がないと判断される
  • 認知症や精神疾患、重大な病気などで職務遂行が難しい。
  • 法律知識や社会的常識が欠如しており、判断力に著しい問題がある。
  • 後見人に刑事事件歴などの重大な非行が発覚した。

 

補足

成年後見人の解任には、家庭裁判所への申立てが必要です。申立てができるのは、利害関係人(例:他の相続人、親族、福祉関係者など)や検察官です。

 

まとめ

相続人が重度障がい者であり、成年後見人が選任されたものの、相続手続きに理解がなく、協力しない場合に発生する不都合は以下の通りです:

 

成年後見人が相続に協力しないことによる不都合

  1. 遺産分割協議が進まない
  • 成年後見人は被後見人(障がいを持つ相続人)に代わって遺産分割協議に参加する必要があります。
  • しかし、成年後見人が相続の仕組みや重要性を理解していない場合、協議に同意せず、話し合いが前に進まなくなります。
  • 遺産分割協議書が整わず、不動産の名義変更や預貯金の解約ができません。

 

  1. 不動産の売却や活用ができない
  • 共有状態の不動産などは、相続人全員の合意が必要です。
  • 成年後見人が同意しなければ、売却や活用ができず、収益化が止まります。
  • 結果として、相続税の納税資金が確保できない、収入が得られないなどの損失が生じます。

 

  1. 相続税申告期限に間に合わないリスク
  • 相続税申告は相続開始から10ヵ月以内に行う必要があります。
  • 成年後見人の対応が遅れることで、遺産分割が決まらず、申告が遅れたり、特例(配偶者控除・小規模宅地の特例など)が使えなくなったりする可能性があります。

 

  1. 家庭裁判所への申立てが必要となり、手続きが煩雑に
  • 成年後見人が遺産分割に同意するには、家庭裁判所の許可が必要なケースが多く、さらなる手続きと時間がかかります。
  • 意向確認や書類の整備など、専門的な知識が必要になるため、成年後見人が素人だと対応が困難になります。

 

  1. 後見人自身が消極的・非協力的であるケース
  • 親族後見人などの場合、そもそも相続問題に関わりたくない、面倒だという理由で非協力になることがあります。
  • その結果、相続全体が停滞し、他の相続人との関係も悪化する恐れがあります。

 

曽根 惠子
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
相続実務士®

株式会社夢相続 代表取締役

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp)認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

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