あいつの世話を頼む…伯父から「3,600万円の遺産」といとこの世話を託された〈55歳男性〉。後見人のまさかの大暴走に呆然としたワケ【相続の専門家が解説】

あいつの世話を頼む…伯父から「3,600万円の遺産」といとこの世話を託された〈55歳男性〉。後見人のまさかの大暴走に呆然としたワケ【相続の専門家が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

55歳の大輔さんの伯父の願いは「自宅を売って、重度障がいのある息子の入院費にあててほしい」というものでした。しかし、相続人であるその息子は意思の疎通が困難で、手続きには成年後見人の選任が必要でした。親族である大輔さんは伯父の遺志を叶えようと奔走しますが、家庭裁判所が選んだ後見人の“想定外の対応”によって、相続は停滞し、大きな壁にぶつかることになります。今回は、「成年後見人の落とし穴」について、相続実務士の曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が解説します。

相続人はひとり息子…後見人が必要になった事情

大輔さん(55歳・男性)から相談がありました。80代の伯父が亡くなったのですが、突然のことで遺言書は残されていませんでした。伯父は大輔さんの母の兄にあたる人で、母の葬儀などを通じて生前から交流があり、「自分のときは頼む」と言われていたそうです。

 

伯父がそう言っていたのには理由があります。伯父にはひとり息子がいますが、大輔さんのいとこにあたるその息子は、生まれつき重い障害があり、現在も重度障がい者として認定されています。一人で生活することができず、ずっと病院で暮らしている状態です。大輔さんも何度か面会に行っていますが、意思のやりとりが難しい状況です。

 

これまで伯父が息子の後見人として、必要な手続きをしてきましたが、突然亡くなってしまったため、後見人が不在の状態に。急いで新たな後見人を選任する必要が出てきたのです。

成年後見人は家庭裁判所が選ぶ

伯父のひとり息子は重い障害があり、自分で生活や手続きができないため、伯父は生前から大輔さんを頼りにしており、財産についてもおおよその内容を伝えていたそうです。伯父の財産は、自宅(土地・建物)がおよそ1,500万円、預金が約2,000万円。相続税の基礎控除(3,600万円)を超えない見込みでした。

 

伯父は、「自宅を売って息子の入院費に充ててほしい」と話していたため、不動産の売却や預金の解約が必要になります。

 

しかし、相続人である息子は自分で手続きができないため、成年後見人が代理で行う必要があります。その成年後見人は、家庭裁判所に申し立てて選んでもらわなければなりません。

成年後見人の役割は「一生」続くことも

成年後見人の仕事は相続手続きだけにとどまりません。むしろ、伯父の亡きあと、息子の生活や財産を継続的に見守ることが主な役割になります。そのため、後見は“一生にわたる責任”となるのです。

 

財産管理、病院費の支払い、面会などの役割も含まれるため、病院の婦長さんから「親族よりも介護や福祉の専門家が適任ではないか」との助言があり、病院が紹介したケアマネージャーを成年後見人として家庭裁判所に申請し、選任されました。

後見人は相続手続きに不慣れ。協力もしない

これで大輔さんも一息つけるかと思いきや、新たな問題が起きました。

 

選ばれた成年後見人(50代の女性ケアマネージャー)は、相続手続きの知識や経験がなく、必要な手続きを進められないというのです。それにもかかわらず、「預金だけは早く渡してほしい」と大輔さんに強く求めてきました。

 

大輔さんとしては、空き家となった伯父の家を早く売却し、その資金をいとこの入院費にあてたいと考えています。また、預金額が増えていると相続税の申告が必要になるため、期限内に処理を進めるよう助言もしました。

 

しかし、後見人は大輔さんの提案に耳を貸さず、打ち合わせにも非協力的でした。

 

後見人の“暴走”が始まった

成年後見人の選任申し立てをしたのは大輔さんで、相続や不動産売却の手続きの準備も進めていました。私(筆者)も相談を受け、司法書士や空き家管理会社を手配していたのですが、後見人は私や大輔さん、司法書士との面談を拒否し、相続手続きを一切進めようとしません。

 

さらに驚いたことに、後見人は家庭裁判所に「親族が結託して財産を奪おうとしている」と事実無根の報告をしていたのです。その言動からも、成年後見人としてふさわしくない人物であることが明らかになりました。

 

不適切な後見人は解任できる

大輔さんは伯父の死後すぐに相談に来られましたが、成年後見人の非協力的な態度により、相続税の申告期限である10ヵ月が過ぎてしまいました。1年が経った今も手続きは進まず、空き家の売却もできないままです。

 

このままではどうにもならないため、私は大輔さんに「成年後見人の解任申立てをして、ご自身が後見人になるしかない」とアドバイスしました。

 

その後、家庭裁判所によりケアマネージャーの解任が認められ、大輔さんが新たに成年後見人として選任されました。親族が後見人となる場合は、監督役として弁護士も選任され、その弁護士に報告をしながら後見業務を進めることになります。

 

ようやく相続の手続きに進める見通しが立ち、大輔さんもひと安心しています。これから相続登記や預金の解約、空き家の売却などを進めていく予定です。これらが終われば、相続の手続きはいったん落ち着きます。その後は、必要に応じていとこが預金を使い、入院費などの支払いにあてることができるようになれば、本当の意味で手続きが一段落したと言えるでしょう。

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