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速報性に優れた景気指標「景気ウォッチャー調査」
内閣府「景気ウォッチャー調査」は調査結果発表までのラグが短い。調査時点が前月25日から前月末で、結果発表が原則翌月の第6営業日という速報性に優れた景気指標である。
「景気ウォッチャー調査」の景気の局面変化の把握は早く的確である。2001年9月米国で同時多発テロ事件が起こった。同年の年末時点では翌2002年は世界同時不況だという意見が多く、2002年1月が景気の谷になる兆しは「日銀短観」などのビジネスサーベイにも出ていなかった。唯一「景気ウォッチャー調査」が2001年11月調査時点で景気底打ちの兆しを掴んでいた。2001年11月の現状判断で「海外旅行から国内旅行に切り替わっていることで、全国から客が集まり、玉造温泉や松江温泉ではホテルも満室でにぎわっている」という中国地方のタクシー運転手のコメントが印象的だった。
「把えどころのない世間の実感」を適格に把えるためには、各地域で地元のことがよくわかっているシンクタンクを活用することが重要なポイントとなる。全国各地で景気に敏感な立場にある人々をシンクタンクが選出し、彼らからの報告を、各地域のシンクタンクが分析処理するシステムになっている。
景気ウォッチャーの7割は、多くの消費者と接する家計動向関連から
景気ウォッチャーを選ぶにあたって、業種と地域という2つの基準を設け、それぞれの内訳のウエイトを実際の民間の実態に合わせて決め、全地域の合計が日本経済の縮図になるように設計された。
景気ウォッチャーの構成は、約7割がタクシー運転手、百貨店やコンビニ、家電量販店、スナック店長など、多くの消費者と接する家計動向関連。約2割が受注の動きなどがわかる企業動向関連。残り1割がハローワークや学校の就職担当など雇用関連である。
景気ウォッチャー調査での正確な景気判断を可能にする仕掛けとは?
注目度が高い調査項目が現状・先行き・現状水準の各判断DIである。現状判断では3ヵ月前に比べ景気が「良くなっている」「やや良くなっている」「変わらない」「やや悪くなっている」「悪くなっている」の5段階で評価してもらい、それぞれ「1」「0.75」「0.5」「0.25」「0」の点数を割り振り、加重平均して数値を算出する。指数は50が判断の分岐点となる。
「景気ウォッチャー調査」には「現状判断DI」と「現状水準判断DI」と、同じ現状判断なのに2つ系列があるが、これが正確な景気判断につながる重要な仕掛けになっている。
景気ウォッチャーに対する最初の質問では、「景気は良いですか、悪いですか」というように景気の水準について聞く。但し、この質問に基づき算出されるデータは参考指標であり、その結果は報告者の後ろの方に「現状水準判断DI」と呼ばれる系列として掲載される。
第2問では、「景気は良くなっていますか、悪くなっていますか」という景気の方向性を聞いている。この質問から作成されるのが新聞等で目にする「現状判断DI」である。現状判断に際しては方向性の指標が重視されている。
景気が「良いか、悪いか」という質問と、「良くなっているか、悪くなっているか」という質問の、どちらか一方だけを聞く場合、回答者によって景気水準と方向性の判断が混じってしまい、正しいデータが作成できなくなる可能性が大きい。双方の違いを深く考えずに回答する人が実際には多いからだろう。
例えば同じ時期に、「景気は回復してきた。拡張局面だ」という人がいる一方で、「まだ景気は悪いではないか」という人がいることがある。景気の水準はかなり悪いが、方向的には半年以上にわたって上向き基調である時などに生じる現象である。
宅森 昭吉
景気探検家・エコノミスト
景気循環学会 副会長 ほか