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「実質賃金」と「最低賃金」、最近1年間の動きをみると…
「景気ウォッチャー調査」で「実質賃金」と「最低賃金」の関連先行き判断DI(Diffusion Index=景況感指数)をつくり、最近1年間の動きをみると興味深い結果になった。
「実質賃金」は、労働者が実際に受け取る賃金から物価変動の影響を除いて算出した指標だ。
一方、「最低賃金」とは、厚生労働省のHPによると、最低賃金法に基づき国が賃金の最低限度を定め、使用者は、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないとする制度に基づく賃金額だ。地域別最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合には、最低賃金法に罰則(50万円以下の罰金)が定められ、特定(産業別)最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合には、労働基準法に罰則(30万円以下の罰金)が定められている。
2024年4月から2025年4月の13ヵ月分のデータでみると、「実質賃金」関連先行き判断DIは2024年7月56.3、9月60.7、12月54.2と、3回景気判断の分岐点である50を上回った。コメント数は2024年4月の8名から5月は2桁の14名になり、6月15名、7月24名と3ヵ月連続で2桁のコメント数になった。夏のボーナスの高い伸び率への期待が高まったことがわかる。なお、それ以外の月は1桁だった。
「毎月勤労統計」の実質賃金・前年同月比は2024年6月+1.1%と2022年3月以来27ヵ月ぶりに増加に転じた。実質賃金・前年同月比マイナスの過去最長記録は26ヵ月で止まった。特別に支払われた給与(ボーナスに当たる)の前年同月比が+7.6%と、デフレーターの帰属家賃を除く消費者物価指数が前年同月比+3.3%の上昇を大きく上回ったことが増加に転じた要因だった。
2024年ではその後、7月、11月、12月が前年同月比プラスになった。ただし、きまって支給する給与の前年同月比は2022年1月+0.5%とプラスになったのを最後に2025年4月まで、帰属家賃を除く消費者物価指数の前年同月比を39ヵ月連続で下回っていて、物価上昇に追いつかないことを示す数字になっている。
2024年度の最低賃金…全国平均1,055円、前年度より51円UP
厚生労働省は2024年8月29日に、都道府県労働局に設置されている地方最低賃金審議会が答申した2024度の地域別最低賃金の改定額を取りまとめたと発表した。
47都道府県で「50円~84円」の引上げが行われ、引き上げ平均額は歴代最高の51円になった。2024年度の最低賃金は全国平均1,055円で、2023年度より51円上がった。7月末に厚労省の審議会が示した引き上げの目安額は50円だったが、人手不足や隣県との格差への危機感から各地で上乗せが相次いだ。徳島県では84円と目安を34円上回る異例の決定がなされた。目安を上回ったのは27県だった。
2024年度の「最低賃金」関連先行き判断のコメント数は2024年6月の3名まで1桁だったが、「最低賃金」が話題になると7月35名と2桁に増加した。関心の高さが続いた時期は、8月52名、9月47名、10月46名と多かったものの、11月に16名に減少、12月9名と1桁に戻り、2025年3月は2名にとどまった。「最低賃金」関連先行き判断DIは2024年度では1度も判断の分岐点50.0を超えることはなかった。
「最低賃金」への関心が高かった2024年8月の「景気ウォッチャー調査」でのコメントをみると、東北のスーパー店長は、「最低賃金改定などで収入が大きく増えることが予想されるため、消費も活性化するとみている」と「やや良くなる」いう判断理由をコメントした。
一方で、甲信越の食料品製造業・製造担当は、「最低賃金上昇分で年間70万円以上、原材料費80万円以上となると、商材単価を今の倍にしていかないと、吸収できない。ただし、本当に価格を2倍にすれば、スーパーでは間違いなく売れなくなる。この狭間で新しい売り方を考えないといけない」と「悪くなる」いう判断理由をコメントしていた。
総じてみると「最低賃金」の増加がコスト高に結び付くというコメントの方が多かった。
実質賃金、「新たな方法で計算した結果」を併記することに
統計委員会は2025年4月25日、実質賃金について、新たな方法で計算した結果を併記すると決めた。デフレーターに持ち家の帰属家賃除く全国消費者物価指数・総合に使っていたが、2025年5月以降に公表する厚生労働省の毎月勤労統計では全国消費者物価指数・総合でデフレートした新たな指標も併記することになった。総務省の家計調査の実質消費支出の実質化でも両者を併記するという。
労働者の実質的な賃金の伸び率を測るには実際には、払っていない「持ち家の帰属家賃」を除いたほうがより生活実感に近いという見解もあるが、米国、ドイツ、英国など「総合」で算出している。国際的には「総合」でみるケースが多い。
日本の場合、帰属家賃の値動きは小さく、価格上昇率は小さい。このため帰属家賃を除いた消費者物価指数・総合の前年同月比は相対的に高くなる。高めの物価上昇率でデフレートした実質賃金は弱めに算出される。逆に、「総合」で計算すれば、低めの物価上昇率でデフレートされるため、実質賃金は強めに出る。
初めて「併記」された2025年3月では、従来の、帰属家賃を除いた消費者物価指数・総合の前年同月比でデフレートした実質賃金の前年同月比は▲1.8%、消費者物価指数・総合の前年同月比でデフレートした実質賃金の前年同月比は▲1.2%で、後者の方がマイナス幅は小さかった。
2025年4月速報値では、帰属家賃を除いた消費者物価指数・総合の前年同月比でデフレートした実質賃金の前年同月比は▲1.8%、消費者物価指数・総合の前年同月比でデフレートした実質賃金の前年同月比は▲1.3%であった。
「併記」の影響で、消費者物価指数・総合の前年同月比でデフレートした実質賃金の前年同月比がいち早くプラスに転じたとき、景気ウォッチャーの認識と「実質賃金」関連判断DIに影響する可能性もあろう。
宅森 昭吉
景気探検家・エコノミスト
景気循環学会 副会長 ほか