(写真はイメージです/PIXTA)

日本と同じく少子化が深刻な隣国韓国では、どのような政策や取り組みが行われているでしょうか。本稿では、ニッセイ基礎研究所の金明中氏が、詳しく解説します。

企業の取組み

建設会社の富栄(ブヨン)グループは、2021年から従業員が子どもを出産した際に、1人あたり1億ウォン(約1,000万円)の出産奨励金を支給しており、その大胆な取り組みが大きな話題となった。この奨励金は、男女を問わずすべての従業員に無条件で支給されるもので、2024年には28人に対して計28億ウォンが支給された。なお、2021年から2024年までの累計支給額は98億ウォンにのぼる。

 

富栄グループは、少子化が国家の存続に関わる深刻な問題であると捉え、その解決に向けて企業が率先して取り組むべきだと判断し、このような破格の出産奨励金の支給を決定したが、この大胆な決定は、韓国政府の税制度改定にも影響を与えた。韓国政府は2024年3月に「企業が職員に支給する出産支援金は、子どもが2歳になるまでは金額にかかわらず全額非課税とする」法案をまとめ、企業側の少子化対策を後押ししている。

 

出産奨励金の効果は、富栄グループの社内にも表れている。2021年から2023年までの間、同社では年間平均23人の子どもが誕生していたが、2024年には5人(約21.7%)増加し、28人が出産奨励金の支給を受けることとなった。

 

建設管理およびプロジェクト管理サービスを提供するハンミグローバルの取組は思い切ったものである。まず、多子出産を奨励するため、三人目を出産した社員を直ちに特進させる破格の制度を導入した。この制度では、昇進年数や評価に関係なく、三人目を出産すると次の上位職級に昇進する。役職に関係なく、制度が適用されるため、三人目を出産すれば部長でも役員(取締役)に昇進することができる。また、4人目の出産からは、出産直後から1年間、育児ヘルパーの支援が行われ、出産した社員には、子どもの数に関係なく、90日の法定出産休暇に加え、30日の特別出産休暇を有給で付与する。

 

次に、育児休業を取得した社員が昇進で不利益を受けないように、人事制度を改編し、最大2年間の育児休業期間を勤続年数として認め、休業中でも昇進審査を受けられるようにした。また、新入社員の公開採用において、子どもがいる応募者には書類選考で加点を与える制度を導入し、子育てと仕事を両立できるよう、8歳以下の子どもがいる社員には2年間の在宅勤務を認めることにした。

 

さらに、結婚を奨励するため、結婚時の住宅購入資金融資支援を拡大し、結婚を控えた社員は、既存の無利子5000万ウォンの融資に加え、年2%の金利(参考までに、韓国住宅公社(Korea Housing Finance Corporation)の住宅ローン金利は、借入期間や金額によって異なり、具体的な金利は2.85%から4.15%の範囲で設定されている。)で5000万ウォンの社内融資を受けられるようにした。

 

LG電子では、育児休業の取得が難しい社員に対する支援として、「育児期勤務時間短縮制度」を導入している。同社の社員は最大2年間の育児休暇を取得可能であり、その利用方法としては、たとえば「1年間は育児休業を取得し、もう1年間は勤務時間短縮制度を利用する」といった柔軟な選択も可能だ。

 

また、男女雇用平等法(正式名称:男女雇用平等と仕事と家庭の両立支援に関する法律)に基づく不妊治療休暇についても、法律上は年間最大日間のうち最初の1日しか有給とされていないところ、独自に計6日間すべてを有給休暇として取得可能にしている。

 

錦湖(クモ)石油化学は、従来の出産祝い金(第一子50万ウォン、第二子100万ウォン、第三子以上100万ウォン)を、2024年から第一子500万ウォン、第二子1,000万ウォン、第三子1,500万ウォン、第四子以上2,000万ウォンと大幅に引き上げた。また、子どもの小学校入学前後最大1ヵ月の小学校入学育児休業も新設した。

 

このように、韓国では深刻化する少子化への対策として、国だけでなく自治体や企業も創意工夫に富んだ支援策を打ち出している。住宅支援や育児インフラの整備、出産奨励金、柔軟な勤務制度の導入など、生活のあらゆる側面から子育て世代を支える取り組みが進んでおり、少子化という国家的課題に対して、社会全体で向き合おうとする動きが加速している。今後、こうした取り組みが他の自治体や企業にもどのように波及していくのか、そしてそれが出生率にどのような影響を与えるのか、その動向に引き続き注目していきたい。

 

 

* 金 明中「2024~2026年度経済見通し」、Weeklyエコノミストレター(2025/3/11)

 

 

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2025年04月15日に公開したレポートを転載したものです。

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