(※写真はイメージです/PIXTA)

親が介護施設に入った後、空き家になった実家をどうするか? 「まだ早い」と思っているうちに、認知症が進んで手続きができなくなるケースも少なくありません。家の売却や資産管理は、どのタイミングで動くべきなのでしょうか? 相続実務士の曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が解説します。

認知症になると生活費も引き出せない、家の売却もできない

では、具体的にどのような場面で支障が生じるのでしょうか。

1. 日常の生活費を口座から引き出せなくなる

電気、ガス、水道などの光熱費、家賃、食費、日用品費などの日常生活でかかる費用、その他に介護施設の月額利用料、医療費などが払えなくなります。

 

金融機関で親が認知症で手続きができないという事実を伝えてしまうと、これらを支払うために親の口座から現金を引き出すこと、振り込みすることは一切できなくなる可能性があります。そうなると認知症の本人の口座からできなくなった支払いについては、子どもが立て替え払いをしなければならないかもしれません。自分たちの生活費の他に、親の生活費の負担が生じるということです。
 

2. 老人ホームの入所金や利用料を捻出するために実家売却ができない

親の介護について、介護施設を頼ることもあることでしょう、その場合、入所するための入所金や毎月の利用料等を支払う必要があり、当然、費用がかかります。所有者本人が支払うべきところですが、認知症で意思能力が低下している場合は、売買契約を締結することはできません。契約が必要になる賃貸もできないということになります。


潤沢な資金があれば良いのですが、家を売れないために資金面に不安がある場合は、子どもが負担したり、家族で介護することになったり、希望外の遠隔地の施設などと、家族の精神・肉体的な負担が生じることになります。
 

3. 遺言書で揉めることも

認知症の疑いがある場合、親がのこした遺言書をめぐって、相続人間で争いが起こることも考えられます。公正証書であれば、作成時に公証人が確認して作成しますので、否認されることはないのですが、自分で書いた自筆遺言の場合は本人の意思ではないと主張されることがあり、遺言書自体が無効になることもあります。

 

遺言書が無効となると、相続人間での遺産分割協議をすることになりますが、そもそも、遺言書の無効の裁判の時点から感情的な対立になっていますので、円満な話し合いは望めないことでしょう。遺産分割協議が整わないと、相続税の節税になる特例も使えず、弁護士費用もかかり、相続人にとっては何もいいことはありません。

 

認知症になったときに、現金引き出しや不動産売却ができる「民事信託契約」

親の財産で介護や生活費の工面、実家を売却したいというとき、すでに認知症等で意思能力が低下している場合は、それらはすべてできないのです。そうしたことを事前に避けるためには「民事信託」契約をしておくことで解消されます。


民事信託とは、資産の所有者=「委託者」からも資産を託される方=「受託者」に資産の所有権を移転します。受託者は、託された資産から利益を受ける方=「受益者」のために、資産を管理・承継することになります。民事信託での関係者は、「委託者」「受託者」「受益者」の3人になります。

 

委託者から受託者に資産の所有権を移転するということが、民事信託の最大の特徴です。受託者は、委託者から財産の委託を受けた目的に従って、受益者のために資産を管理・承継しなければなりません。

 

受託者は,資産の所有者になりますが、「信託の目的」という厳格な縛りの中で資産を所有するということになります。したがって、必ずしも自由に資産を利用できるわけではありません。

 

受託者は、信頼できる方であれば必ずしも家族でなくても構いません。もっとも、多くは親が子どもに財産を託すものです。民事信託契約ができていると、親が認知症になったとしても、財産を託された子どもが親の代わりに、売買、賃貸などの契約ごとができますので、認知症による空白期間が生じないと言えます。

相続実務士のアドバイス

できる対策
空き家の自宅は認知症になる前に売却してしまう。

 

注意ポイント
認知症が進み、意思確認が取れなくなると家の売却などができなくなります。本人が家に戻れない、子どもも住まないという場合は早い決断が必要です。タイミングを逃してしまうと相続になるまで売却できなくなるため、動かせない財産を抱えていくのは大変です。

 


        

曽根 惠子
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
相続実務士®

株式会社夢相続 代表取締役

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp)認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

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