進学を機に実家を離れた穂波さん
穂波さん(54歳)は一人娘で、両親から大事に育てられました。それでも大学に進学するには実家を離れる必要があり、高校を卒業してから大学の寮に入りました。卒業後も実家に帰る選択肢はなく、そのまま東京で就職し、会社の同僚と職場結婚をして仲良く暮らしています。
穂波さん夫婦は子どもには恵まれなかったので、ずっと夫婦とも仕事をしてきました。父親は70代で亡くなり、母親が一人暮らしになりましたが、母親は元気で一人暮らしを楽しんでいるようでしたし、仕事をしている穂波さん夫婦は通勤を考えると同居できる距離ではありませんでした。
母親が一人暮らしをするには不安が出てきた
それでも、母親が80代半ばとなり、歩くことが大変となり、穂波さんに電話が入ることが多くなってきました。穂波さんには仕事があり、母親の家までは2時間ほどかかる距離に住んでいるため、急な呼び出しには対応できないのです。
そうした状況もあり、介護ヘルパーさんからも母親の様子を聞くとそろそろ一人暮らしは不安だとアドバイスをされ、介護施設に入所することになりました。それで一安心したのですが、あっという間に2年が経ち、実家の空き家の管理も気になり始めました。
母親は一人では自宅に帰ることができないため、穂波さんが介護施設に迎えに行き、外出して見に行く程度です。さらにコロナの時期には外出も、施設で会うこともできなくなったため、いよいよ実家をなんとかしておきたいと相談に来られたのです。
母親が認知症になるぎりぎり前に意思確認できた
実家は父親が亡くなったときに母親名義にしました。よって売却するには母親の意思確認が不可欠になります。穂波さんから母親の状態を聞き、空き家の実家は母親の意思が確認できるうちに、すぐ売却したほうがいいとアドバイスしました。
介護施設に入所して認知症が一気に進行してしまう方のケースも見てきたので、売却は早いほうがいいと判断したのです。先延ばししてしまうと介護費用が足りなくなり、いざ、自宅を売却しようとしても、母親の意思確認ができず、名前を書くこともできないとなり、相続になるまで売れなくなることも……。
そうした事態になる前にとアドバイスをしましたところ、穂波さんは母親に相談し、もう自宅に帰ることはないので売却してもいいとなりました。
母親が介護施設に入居する時点で貴重品は持ち出していますが、仏壇や位牌を供養し、荷物の処分などして、家の売却は無事に完了。住まない家が現金に変わりましたので、これからまだ長い介護に費用がかかっても不安がなくなりました。穂波さんが相談に来られてから半年かからずに売却を終えることができ、とてもよかったと安心されました。
認知症になるとできないことが出てくる
認知症になって“意思能力が低下”した状態になると、契約行為などが一切できなくなります。相続や資産に関連することなど、次のようなことができなくなります。
・金融機関での取引→預金の払い出し、振り込み、預金の解約、借入など
・不動産取引→売却、購入、貸す、借りる、土地測量、建替え、改修工事など
・生命保険→契約締結、解約、変更など
・贈与→現金、住宅や教育などの資金贈与など
・金融商品取引→株や債券などの取引など
・相続関連→遺言書、遺産分割協議、民事信託契約など
このように身近なことから、資産を動かすときなど様々な場面で何もできなくなります。