ラスベガスのバカラで儲けた日本人が課税されたワケ
そんななか、2025年2月27日、東京地裁で興味深い判決が下されました。ラスベガスでバカラ賭博を行い利益を得た日本人に対し、税務署が課税処分を行ったのです。
課税対象となったのは、カジノの「VIP顧客」。この人物は、カジノと約2億円のクレジット契約を結び、与信枠内でチップを受け取ってバカラをプレイしていました。
問題となったのは「ライブチップ」と呼ばれるカジノ内で使用される特殊なチップの価値です。顧客側は「限定的な場所でしか使えないチップには客観的な交換価値がない」と主張しましたが、東京地裁はこれを退け、「所得税の課税対象は必ずしも不特定多数で流通する資産に限らない」と判断しました。
東京地裁が示した「1ゲームごとの所得計算」
さらに東京地裁は、バカラの勝ち負けによる所得計算についても新たな解釈を示しました。
バカラは1ゲームごとにチップの配布や没収が行われるため、各ゲームを独立した取引とみなし、それぞれの勝敗ごとに所得を計算すべきだというのです。
1億円を賭けて最終的に利益なしでも「課税対象」に?
具体的に説明すると、たとえば以下のようなケースを考えます。
1億円のチップを持ってバカラをプレイした客がいたとします。
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1~4回目:各2,000万円を賭けてすべて敗北 → 合計8,000万円の損失
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5回目:残り2,000万円を賭けて勝利 → 1億円を獲得
なんとか当初持ってきた分のお金を取り戻せたので、その客はそこでバカラをやめました。
この場合、1億円を持ってバカラに参加し、1億円を持ってバカラから抜けたので、表面上は元手と同じ1億円を手元に戻しただけで、「プラスマイナスゼロ」のように見えます。
しかし税法上は、勝った5回目のゲームだけが所得対象となり、そこに賭けた2,000万円が必要経費として認められる一方、他の負けゲームの損失8,000万円は経費として扱われません。結果として、8,000万円の一時所得があったとみなされ、課税されるのです。
「負けた分は損失として認められない」日本の税法
このように、日本の税法では、負けた分の損失が勝ちの経費として控除されず、「勝ったゲームだけで課税される」という極めて厳格なルールが存在します。
前述した「1ゲームごとに個別の所得計算を行う」に則ると、1~4回目のゲームでは2,000万円×4回分の損失が出ていますが、所得は発生しなかったので、計算には含まれません。一時所得として計算されるのは賭けに勝った5回目のみということになります。5回目に賭けた2,000万円で1億円を儲けたので、差し引き8,000万円の所得として計算する必要があるのです。
1ゲームごとに所得計算をするということは、負けたゲームの損失分(前述の例では2,000万円×4回分=8,000万円)が、勝ったゲームの経費にならないということなのです。
先進国のなかでも群を抜いて異様な「日本の税法」
たとえ全体では赤字になっていても、勝ちがあれば課税対象になるのです。たとえば、1億円を賭けて3,000万円しか残らなかった場合でも、勝ったゲームで得た利益があれば課税対象です。
この課税方法を適用すれば、過去に話題となった巨額賭博事件においても、税法違反が問われる可能性があります。競馬や競輪ファンの多くも、理論上は申告漏れに該当するケースがあるといえるでしょう。
賭けに負けた分を損失として扱わず、勝ち馬投票券だけで計算するのだから日本の所得税法は恐ろしいです。
本稿で紹介した事例からも分かるように、日本の税法における「賭博収入」への対応は、他の先進国と比べても非常に厳しい部類に入ります。
自己申告制を基本とする税制度において、どのように適切な課税を実現するかは今後の課題です。一方で、課税対象となりうる収入を得た以上、適切な理解と申告が求められることは間違いありません。
税理士法人奥村会計事務所 代表
奥村眞吾

