税務調査当日
そうして迎えた当日。店主は調査官と対面し、Aさんもお店がお休みなので、付き添いとして立ち会います。
調査官はお店のことや毎日の流れなどを熱心に聞いてきました。店主は「意外だな」と感じます。税務調査といえば、帳簿や領収書をじっくりみて過ごすものだと思っていたためです。実際、うろ覚えですが以前の税務調査はそんな様子だった記憶があります。しかし、今回の調査官はまったく違うのです。
帳簿の確認はそこそこに、店内を見学したり、歩き回っていろいろ質問したり。穏やかな雰囲気で熱心に聞いてくれるので、店主もお店に興味をもってくれているのかもしれないと嬉しくなり、試作品のことや新メニューのこと、そして、Aさんとの関係なども詳しく話しました。調査官は頷きながら聞き、質問を重ね、とても和やかに調査の時間が流れていきます。
店主もAさんも、税務調査といったら厳しい表情で帳簿や領収書などをくまなくチェックするというイメージがあったので、緊張して挑んだはずが拍子抜け。よさそうな調査官で当たりだなと思ったほどでした。
しかし、そんな空気は15時を過ぎていくと少しずつ失われていきます。これまで穏やかに話していた調査官も少し無口になってきました。なんとなく違和感を覚えていたところに、思いもよらない展開が待っていたのです。
税務調査官からの「まさかの指摘」
店主やAさんが嬉しそうに話していたまかないや、Aさんが2階に引っ越してきた経緯の話に対して、これらがすべて現物給与になるというのです。
Aさんは朝も昼も夜も、当たり前のようにまかないを食べて過ごしていました。そして、2階の住居も店主の厚意で家賃を支払うことなく住まわせてもらっていました。店主はAさんが一生懸命いろいろと尽くしてくれているのに、昇給もできないし賞与を支払うこともできないので、それくらいはしてあげたいという強い気持ちがあったのです。また、このお店は賃貸で1階と2階込みでの家賃だったので、わざわざわけてAさんに請求する必要もないだろうと思っていました。
しかし、調査官はこれらの行為を継続的なやりとりであったと判断し、3年間遡って指摘します。その額は店主もAさんも想像もしなかった金額でした。
