超人気アーティストのCD初動売上枚数「50万枚超え」は景気拡張局面の目安
2020年12月31日で活動休止した国民的人気グループ、「嵐」。彼らのシングルCDの初動売上枚数(発売日から最初の1週間における売上)などは、景気動向の早期把握に役立った。
新曲は少し待てばアルバムに収録されるため、景気低迷時にはシングルCDの売れ行きは鈍化する。経験則上、超人気アーティストのCD初動売上枚数が50万枚超えになることが、景気拡張局面の目安である。不要不急の商品を買う余裕があるからだ。
景気の山をつけた18年を除き、毎年50万枚超えを出していた嵐
嵐は2009年から2020年まで、景気の山をつけた2018年を除き、50万枚超えのCDが毎年1曲以上あった国民的人気グループだ。嵐は景気分析においても注目の的だった。
例えば、リーマン・ショックの影響で多くの経済指標が悪化していた景気の谷にあたる2009年3月、嵐の『Believe/曇りのち、快晴』は、初動売上枚数が50.1万枚と初めて50万枚を超えた。『曇りのち、快晴』は、同年1~3月期にテレビ朝日系列で放送されたリーダー大野智の主演ドラマ『歌のおにいさん』で、大野智演じる主人公・矢野健太が歌う劇中歌であった。
本作はすべての回で視聴率(ビデオリサーチ、関東地区)が2ケタを記録し、午後11時台のドラマとしては異例のヒットとなった。頑張っている人を応援するドラマのヒットは、景気後退局面の終わりを告げることが多い傾向にある。シングルCDの50万枚超えは2006年のKAT‐TUNの『Real Face』以来、3年ぶりだった。
景気は2008年2月を山として後退局面に入り、秋にリーマン・ショックが起きた。同年に『One Love』『truth/風の向こうへ』『Beautiful days』などの名曲といわれるシングルCDを発売し、初の5大ドームツアーを行うなど国民的グループになっていた嵐だが、2008年中は初動売上枚数が50万枚に届かない状況であった。
前述のように景気の谷である2009年3月になって、『Believe/曇りのち、快晴』が初めて50万枚を超えた。なお、2009年に初動が50万枚を超えたのは嵐だけだったが、2010年からはAKB48が初動50万枚超えするグループとして登場した(図表1)。
2012年は、3月発売の『ワイルド アット ハート』は初動55.0万枚だったが、6月の『Your Eyes』は初動47.7万枚にとどまった。国内景気は2012年3月が山で、6月は11月の谷に向かう後退局面だった。
2014年4月30日発売の『GUTS!』は50.1万枚で、初動50万枚を超えた。次いで5月にはAKB48『ラブラドール・レトリバー』が初動でミリオン超えとなった。
内閣府の景気動向指数研究会は2017年6月、消費増税を経ても2012年12月以降「景気の拡張が続いている」と判断したが、嵐の初動売上枚数がいち早く「景気は後退局面にならなかった」ことを裏付けていた。
2017年11月発売の『Doors ~勇気の軌跡~』が57.1万枚と、4作ぶりに初動で50万枚を超えたことで、嵐のCDは9年連続で初動50万枚超えを記録した。
自然災害が多く発生し、10月に景気の山をつけた2018年。嵐のCDは3枚発売されたが、初動で50万枚を超えることはなかった。10月24日発売の『君のうた』は累計売上が41.2万枚にとどまった。
ラストシングルのミリオン達成時、景気は回復局面に入っていた
国民的人気グループの嵐が2020年12月31日での活動休止を発表したのは、2019年1月27日のことだった。NHKは夜7時のニュースでトップニュースとして伝えた。同日、フジテレビ系で夜10時から放送された『Mr.サンデー』の平均視聴率は13.6%で、前週の9.7%から3.9ポイントアップ。10時29分には瞬間最高16.2%を記録した。関心を持った視聴者が多かったようだ。
デビュー10周年の翌年にあたる2010年のオリコン年間ランキング「アーティスト別トータルセールス」において、嵐は売上総額171.6億円で初めて第1位に輝いた。
デビュー20周年の2019年には、オリコン年間ランキング「アーティスト別トータルセールス」の自身の最高額を更新し、203.3億円と初の200億円超を記録した(図表2)。
2019年の秋に開催されたラグビー・ワールドカップ日本大会で、嵐は日本テレビ系の「ラグビー・ワールドカップ2019」のテーマソング『BRAVE』を歌った。なお、従来の景気動向指数による景気の山は2018年10月で、『BRAVE』の発売時期は景気後退局面に当たるものの、2019年は7~9月期頃までしっかりした経済指標が多く、内閣府の新しい景気動向指数(一致指数)のピークは2019年秋である。
嵐は旧・国立競技場との縁が深く、2010年には4日間公演を行い、86万人を動員している。2020年5月15日・16日には、新・国立競技場で初の単独アーティスト公演を行う予定だったが、新型コロナウイルスの影響で延期となった。「アラフェス2020 at 国立競技場」は、2020年11月3日に配信されたコンサートで、嵐のデビュー日を記念して行われた。このコンサートは無観客で行われ、ファンクラブ会員向けと一般向けの二部構成で配信された。
2020年7月29日発売の嵐の最後のシングルCDの『カイト』は初動91.0万枚と、50万枚を大きく超えた。通常盤には、カップリング曲として、昨年11月の「天皇陛下御即位をお祝いする国民祭典」で披露された奉祝曲『Journey to Harmony』も収録された。『カイト』は嵐として累計で100万枚を超え、初のミリオンを達成。景気局面は2020年5月を谷として景気回復局面に入っていた。
宅森 昭吉
景気探検家・エコノミスト
景気循環学会 副会長 ほか