「視聴率の推移」から見る景気
TBS日曜劇場で2013年に放送されたドラマ『半沢直樹』の最終回は、現在、ビデオリサーチによるドラマ(一般劇)の高視聴率ランキング(関東地区)で第2位(42.2%)である。ちなみに、第1位(45.3%)は1983年に放送された『積木くずし−親と子の200日戦争−』の最終回だ。時代劇分野の第1位は1979年2月5日に放映された『水戸黄門』の最終回で、43.7%である。勧善懲悪モノの視聴率は高い傾向にありそうだ。冒頭で述べた2013年版『半沢直樹』の最終回は、一般劇、スリラー・アクション、コメディ、時代劇の4分野すべてにおいて「21世紀になって以降の最高視聴率」である。
なお、最近5年間の2020年代の高視聴率ランキング第1位は『半沢直樹(2020年版)』の最終回(32.7%)である。しかし、過去からの高視聴率ランキングベスト10には入っていない。また、2023年7~9月クールに放送され話題になったTBS日曜劇場『VIVANT』の最高視聴率は最終回の19.6%で、20%にも届いていない。2025年1~3月クールに放送されているドラマではTBS日曜劇場『御上先生』が一番高いが、最高視聴率は初回の12.2%にとどまった。
「放送時の景気局面」は視聴率を左右する
『半沢直樹』が初めて放送された2013年7~9月クールの連続ドラマは、かつて1998年4~6月クールに大ヒットしドラマアカデミー賞最優秀作品賞を受賞した『ショムニ2013』『斉藤さん2』など、“強い女性”を主人公とするリバイバル作品が多かった。
2012年11月が景気の谷になり2013年は景気拡張局面になったので、景気後退局面でヒットすることの多い“強い女性主人公のドラマ”が景気拡張局面でも高視聴率になるかが注目された。『ショムニ2013』の第1回は18.3%で、『半沢直樹』の第1回19.4%と大差がなかったが、その後の方向は逆で、グラフにするとワニの口になった(図表2)。『ショムニ2013』の第3回で関東地区の視聴率が9.9%と早くも1ケタになり、第10回は7.8%まで低下。1ケタ台の視聴率回が多く不振であった。
景気後退期の1998年4~6月クールで放送された『ショムニ』は最終回が28.5%と、コメディ・ドラマで歴代6位の高視聴率を誇る人気作だったが、2013年7~9月クール放送の『ショムニ2013』では低視聴率ドラマになってしまった。

2008年の放送で最高19.6%を出し、2013年の第1回が15.5%だった『斉藤さん2』も最終回の視聴率が12.9%に戻したものの、第5回は視聴率9.7%と1ケタを記録し不振だった。2013年7~9月は景気拡張局面に当たり、強い女性が主人公のドラマは視聴者にあまり支持されていなかったといえる。
一方、『半沢直樹』の視聴率は第2回から第6回まで20%台、9月に入って第7回から第9回までが30.0%台、最終回が42.2%を記録する大ヒットになった。

「心温まるラブストーリー」は景気拡張局面に流行りがち
2020年7~9月クールの連続ドラマでは全話視聴率20%超、最終回に令和初の最高視聴率32.7%を達成した『半沢直樹』に注目が集まった。「倍返し」のセリフが有名な『半沢直樹』だが、2020年のシリーズでは「恩返し」も話題になった。
一方で、働き盛りで仕事一直線だけど家事と恋は不器用な28歳・独身女性が、おじさん家政夫を雇うことから巻き起こるハートフルラブコメディー『私の家政夫ナギサさん』も結果を出し話題になり、「ワタナギ」という言葉が流行った。
『私の家政夫ナギサさん』の初回視聴率は14.2%だったが、回を重ねるごとに数字が上昇し、最終話は19.6%になった。全話平均視聴率は15.1%で、2016年10~12月期の『逃げるは恥だが役に立つ』の14.6%を超えた。
1998年の金融危機時にブレークした『ショムニ』のような、強い女性が主人公のドラマが流行るときは景気後退局面であることが多いが、心温まるラブストーリーが流行るときは景気拡張局面であることが多い。2020年は5月が景気の谷で、7~9月期は今回の景気拡張局面が始まったばかりの時期だったので、いち早く景気局面を把握するのに役立った。

宅森 昭吉
景気探検家・エコノミスト
景気循環学会 副会長 ほか