深刻化する「所有者不明土地」の問題
不動産登記簿を見ても所有者がわからない、あるいは所有者は判明しても連絡がつかない土地を「所有者不明土地」といいます。所有者不明土地の面積はいまや国土の20%(=九州に匹敵)になるとされ、深刻な社会問題となっています。
所有者不明土地が生じる主な原因は、所有者が亡くなっても名義変更(=相続登記)が行われなかったり、所有者が転居しても不動産登記簿上の住所変更(住所変更登記)が行われなかったりすることが挙げられています。
所有者不明土地問題の解消に向けた法改正
国は2024年4月1日から相続登記を義務化し、申請期限や怠った場合の罰則(10万円以下の過料)を設けるなどして、所有者不明土地の解消に向けて動いています。相続登記義務化については対象者が多く、「怠った場合は10万円以下のペナルティ」とたびたび報じられたこともあり、聞き覚えのある読者も一定数いるでしょう。
一方で、同時期に、海外在住者の不動産登記にも変更が生じていたことはご存じでしょうか。海外在住の日本人・外国人が国内不動産を購入した場合、2024年4月以前は「氏名」「住所」のみで登記完了していたところ、法改正により「日本国内の連絡先」の登記も必須となりました。
法改正の背景にあるのは、相続登記と同じく「所有者不明土地問題」です。所有者が日本在住であれば、住民票をたどって何とか追いかけることも可能ですが、海外居住者の場合は追跡が難しく、そのまま連絡がつかなければ所有者不明土地になりかねません。
近年、円安が進んだ影響で海外投資家が増加傾向にあります。円の価値が下がるわけですから、日本の土地も海外投資家からすると安く買えるようになっているわけです。しかし、連絡がつかず所有者不明土地の要因になっては困るため、「日本国内の連絡先」を必須とする法改正がなされました。
登記申請書の記載例
法改正により実際どのように変わったのか、登記申請書の記載例を一部抜粋し、見ていきましょう。図表内の赤字部分が法改正で追加された項目です。

不動産登記簿には、登記申請書に記載した情報が反映されます。
国内連絡先となる者は、一般個人(自然人)でも法人でも問題ありません。国内に親族や知人などがいればその人を、近しい人がいなければ不動産会社や司法書士などの不動産関連業者を指定することになるでしょう。
国内連絡先となる者は、登記名義人(所有者)本人の窓口的な立場となるわけですが、どのような責任が発生するかはまだわかりません。国内連絡先になる者は、添付情報として「国内連絡先事項証明情報」や「国内連絡先承認書」を印鑑証明書付きで提出することになるため、それなりの重みが生じそうな印象を受けます。
場合によっては「国内連絡先なし」でも登記可能だが…
なお現状では、国内連絡先となる者がどうしても見つからない場合においては、その旨を上申書に添付することで、国内連絡先を登記せずともよいことになっています。
ただし、「固定資産税の納税管理人」は実務上、指定しておかなければなりません。これは法改正以前からの決まりです。
固定資産税の管理人とは、登記名義人(=納税義務者)に代わって納税通知書を受け取り、納税管理を行う人のことです。納税義務者が海外在住の場合は固定資産税の通知書が届かないため、固定資産税を払えない状態となります。滞納により不動産が差押えに至ることがないよう、これまでも納税管理人を設定することが事実上要請されてきました。
国内連絡先となる者がいなくとも、現状では上申書をつければ登記手続き自体は可能ですが、国内連絡先が今後「必須」となる可能性もありますし、もとより固定資産税の納税管理人の指定は必要です。納税管理人と国内連絡先の人を同一人物にすることが、1つのスマートな方法ではないでしょうか。
以上、今回は海外在住者が日本国内の不動産を購入した場合の登記について解説しました。本稿がご参考になれば幸いです。
佐伯 知哉
司法書士法人さえき事務所 所長
1980年生まれ。大阪府泉大津市出身。高知大学理学部卒。相続の専門家として、相続へ不安を抱えるお客様や、その家族が安心して手続きに臨めるよう、単なる手続きにとどまらず、SNS等を活用した情報発信にも力を入れている。
YouTubeチャンネル『司法書士/佐伯ともや』では、相続登記を始めとするお役立ち情報の解説から、趣味の筋トレやサプリメントのこと、VLOGなど幅広く発信。
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