〈揺らぐ成年後見制度〉後見人の弁護士を「利益相反行為」で提訴、弁護士・司法書士による横領発覚…報酬システムをめぐる大問題【司法書士が解説】

〈揺らぐ成年後見制度〉後見人の弁護士を「利益相反行為」で提訴、弁護士・司法書士による横領発覚…報酬システムをめぐる大問題【司法書士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

認知症対策として周知されてきた「成年後見制度」ですが、この制度をめぐる深刻な問題が次々と表面化しています。利用者数が24万人を超える一方、制度の根幹を揺るがす問題が噴出しているのです。司法書士の佐伯知哉氏が解説します。

専門家の間に衝撃が走った「2つの事件」

「成年後見制度があれば、認知症になっても安心」。そう考えている人は多いかもしれません。しかし、この制度をめぐり、制度の根幹を揺るがす深刻な問題が次々と表面化しています。24万人を超える利用者がいる一方で、後見人に対する報酬返還を求める訴訟、専門職による横領事件、そして何より、月額約3万円ほどの後見人報酬をめぐる専門職と利用者家族の根深い価値観の対立などが、あちこちで起きているのです。まずは、制度の根幹を揺るがすこととなった判決について取り上げます。

 

◆成年後見人となったある弁護士、「利益相反行為で違法」と提訴される

成年後見人となったある弁護士が、利用者の財産から報酬を受け取ることについて「利益相反行為で違法」と提訴されました。これまで「家庭裁判所が決めた報酬なら問題ない」とされてきた常識が覆された瞬間でした。

 

ポイントは「家庭裁判所の後見人に対する報酬を与える旨の審判は、後見人に請求権を与えるだけで、利用者に支払い義務を生じさせるものではない」というのです。

 

この判決は、成年後見制度の報酬システムそのものに疑問符を突きつけました。専門職の間に走った衝撃は大きいものでした。実際、この訴えが認められれば、今後専門職が後見人に就任することは、極めて慎重、かつ難しい判断に迫られることになってしまいます。

 

◆東京司法書士会の消費者問題対策委員長までも…専門職による背任行為

さらに深刻なのが、専門職による横領事件です。

 

広島市の弁護士による2,000万円の横領(別件で1億1,000万円)。東京の司法書士による1億5,000万円の横領。しかもこの司法書士は、東京司法書士会の消費者問題対策委員長だった人物です。

 

最高裁の統計によると、2022年の成年後見人等による不正被害額は約2億8,000万円、被害件数は126件でした。

 

本来、本人を守るべき立場の専門職による背任。一部の不正が業界全体へと影響し、制度への信頼は地に落ちてしまう。まじめに後見人として仕事をしている専門職からするとはらわたが煮えくり返る思いでしょう。

後見人への報酬をめぐる、専門職・利用者家族間の根本的な溝

しかし、最も根深い問題は別にあります。月額約3万円の後見人への報酬をめぐる、専門職と利用者家族の価値観の根本的な溝です。

 

専門職の立場から率直に申し上げると、月3万円の後見報酬が数件あっても、決して「割の良い仕事」とは言えません。利益だけを考えるなら、もっと良い仕事はたくさんあります。

 

しかし同時に、本人や親族の立場に立ってみると、表面上はほとんど何もしていないように見える人に月3万円を亡くなるまで払い続けることが多大な負担であることも理解できます。

 

親族側からすれば「自分たちだけでできることに、なぜ毎月3万円も払わなければならないのか」という気持ちになるのは当然でしょう。一方で、専門職側からすると、身内の財産管理や身上監護と善管注意義務のある他人のそれとは負担が全然違うため、月3万円では正直厳しいのが現実です。

 

双方の立ち位置によって、同じ3万円の価値がまったく変わってしまう。ここに制度の根本的な矛盾があります。

 

専門職が背負う責任とリスクは重いものです。善管注意義務という法的責任、判断ミスによる損害賠償リスク、親族間のトラブル対応、家庭裁判所への定期報告、および24時間体制での緊急対応。そして今や、報酬受領自体が「利益相反」として訴えられるリスクまで加わりました。月3万円でこれらの責任を引き受ける専門職にとって、決して割の良い仕事ではありません。

 

しかし、利用者家族の気持ちも理解できます。「自分たちでもできそうなこと」に月3万円を一生涯払い続ける負担。しかも後見人は選べず、一度始めたらやめられません。「何もしていないように見える」専門職への不信も募ります。この温度差が、制度への不満を増幅させているのです。

 

こうした問題を踏まえると、認知症になる前の対策が重要になります。

 

主な選択肢は家族信託と任意後見です。

 

◆家族信託の特徴

家族信託は財産管理の柔軟性が高い制度です。家庭裁判所の関与なしで、契約で詳細な設計が可能です。相続対策と認知症対策を同時に実現できます。

 

初期費用は30万円から100万円程度と高いですが、継続費用はかかりません。長期的に見れば経済的なメリットは大きいでしょう。

 

◆任意後見の特徴

任意後見は成年後見制度の一種ですが、本人が元気なうちに後見人を選べる点が大きな違いです。身上監護もカバーでき、初期費用は比較的安く済みます。

 

ただし、家庭裁判所の関与は避けられず、任意後見監督人の報酬が継続的に発生します。

 

法制審議会では成年後見制度の見直しが検討されています。後見制度の柔軟な終了、監督体制の強化、報酬制度の見直しなどが議論されていますが、実現時期は不透明です。

司法書士からの3つの提言

現場を見てきた立場から申し上げられることとして、まず、成年後見制度の構造的問題を正しく理解することです。月3万円をめぐる対立は、制度設計そのものの限界を示しています。

 

次に、早めの対策を検討すること。判断能力がしっかりしているうちでなければ、家族信託も任意後見も契約できないからです。

 

そして、画一的な制度に頼らず、家族の状況に応じた柔軟な選択をすること。専門家と十分に相談し、長期的な視点で判断することが重要です。

 

成年後見制度の現実は、理想とかけ離れています。報酬をめぐる訴訟、横領事件、そして専門職と家族の価値観ギャップ。これらの問題は、制度の根本的な見直しが必要であることを示しています。

 

しかし、制度改正を待っているだけでは遅すぎます。いま着手すべきは「認知症になる前の準備」です。従来の制度の限界が明らかになったいまだからこそ、準備を急ぐことでできるだけ多くの選択肢を残し、現実的な対策を考える必要があるといえます。従来の常識・方法にとらわれず、新しい選択肢を検討する時が来ているのです。

 

 

佐伯 知哉

司法書士法人さえき事務所 所長

 

 

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