オーナー依存から「脱却」した例
譲渡企業において、営業の根幹を支えているのは、実はオーナーとキーマンと呼ばれるような人材であったりする。オーナーはM&A実施後、継続して残ってくれる場合もあれば、引継ぎ期間を経て完全に経営から退く場合もある。そうなると、これまで取れていた受注や売上が途端に上がらなくなる。
そうならないように、オーナー以外のキーマンや残った従業員で営業プロセスを組み直す必要がある。この点は譲受企業と相談しながら、譲渡企業の内部で進めていくことになる。譲受企業から新たな営業部長が派遣されてくれば良いが、そうでない場合は、譲渡企業の従業員が担う必要がある。ある企業を例に見てみよう。
実際にM&Aを実行した企業では、オーナーの引退が一定期間後に決まっていたため、ナンバー2のキーマンを中心に営業体制を見直した。オーナーに付いていたクライアントの引継ぎをPMI当初から行い、オーナー引退によるインパクトの軽減に努めた。また、営業プロセスのなかで属人的な業務になっていた箇所を洗い出し、言語化して、オーナー以外のメンバーでも携われるように整備を行った。
これにより、残った人員でこれまでの動きが継続できるようになった。もちろん、オーナーのように多くの受注や売上をすぐに上げられるわけではないが、「事業の継続(=経営をつなぐ)」という意味で、譲渡企業内部による重要な動きであった。
PMIを成功に導くために
日本電産の永守重信社長が「M&Aは契約の時点で2合目、残りの8合分は企業文化を擦り合わせるPMI」と言うように※、M&Aは交渉して終わりではなく、その後の時間のほうが長い。
※2012年8月10日付日本経済新聞より
M&Aによって譲受企業の企業価値が向上するということは、すなわち、引き受けた譲渡企業の企業価値も同時に上がっていることを意味する。譲渡企業の業績は落ちているが譲受企業の業績が上がっている状況というのは、当初予定していたシナジーが上手く出ていないということである。
シナジーを生み出すためには、譲受企業のみの努力でどうにかなるものではなく、譲渡企業側も積極的に関わることが求められる。譲渡企業は譲受企業の戦略を見極め、PMIフェーズで実際にアクションを起こすことで、自社の企業価値を向上させる。
大手企業のグループに入ることや自社をサポートしてくれる譲受企業が現れたからといって、決して安泰ではない。PMIを成功に導くためには、自社を最もよく知る譲渡企業の幹部や従業員が、譲受企業と連携していくことが求められる。
受け身ではなく、「譲受企業のリソースを活用して、自社をさらに成長させていこう」という、前向きかつ野心的なマインドをもってPMIに臨むことが重要だといえるだろう。
丹尾 渉
株式会社タナベコンサルティング
執行役員
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