思い通りにならない財産分与
「タワマンを渡せ? それは無理だな」
離婚調停の場で、直樹さんがきっぱりと告げました。
「このマンション、ローンが1億円も残ってるんだぞ? 俺が住まないのにローンを払い続けるわけがないだろ」
「でも、あなたが不倫したんだから、それくらい責任を取るのが当然でしょ?」
「慰謝料は払う。でも家を渡すのは無理だ。売却して残債を清算する。それが一番合理的だろ?」
不倫の証拠が揃っている以上、夫側が不利な立場ではあります。しかし、財産分与は「負の財産」も分割される仕組みです。ローンの残債がある不動産を「妻に譲渡する」という選択肢は、現実的ではないでしょう。
「専業主婦であるあなたが、銀行から1億円のローンを引き継ぐのは不可能ですよね?」弁護士からも再度指摘され、真紀さんはようやく現実を理解しました。
「えっ……? つまり、私がこのタワマンに住み続けることは……?」
「売却するしかありません」
「嘘でしょ……?」
夫がタワマンを手放す決意を固めたことで、真紀さんの計画は崩れ去りました。
離婚後の現実
タワマンは売却され、売却益の一部が財産分与として分配されました。手元に残ったのは3,000万円。慰謝料と合わせても5,000万円程度。確かにまとまったお金ではありますが、子どもの教育費を考えれば、「一生贅沢な暮らし」ができる額ではありません。
「離婚したら、もっと自由で豊かな生活になるはずだったのに……」
新居は駅から徒歩15分、築20年の賃貸マンション。
「まだママ友には離婚をしたことを言えていません。こんな安っぽいマンションに引っ越しをしたなんて恥ずかしくていえない。いずれバレてしまうだろうから、噂される前に上手い言い訳を考えなくては……。子どもたちにも惨めな思いをさせるのは御免だわ」真紀さんは頭を抱えます。
当然ながらこれまでの生活レベルは維持できません。夫と別れ、専業主婦から独立することになったものの、真紀さんの最終職歴は15年前のまだ20代だったころ。長いブランクを経て40代で社会復帰するのは容易ではなく、求職活動に苦戦する日々です。
「まさか、離婚して自分がこんなに苦労するとは思わなかった……」
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