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冷蔵庫の前で立ち尽くす祖母
東京都郊外に暮らす佐藤正夫さん(仮名/72歳)と妻の恵子さん(仮名/70歳)は、築35年の分譲マンションで2人暮らしをしています。佐藤さん夫婦の年金収入は、2人合わせて月額約22万円。住宅ローンは完済していますが、マンションの管理費や修繕積立金、医療費などの固定費で5万円、食費や光熱費などの生活費で14万円。合計19万円ほどの支出で暮らしています。
毎月3万円程度の予備費も確保できており、決して贅沢はできなくとも、慎ましく安定した老後を送っているはずでした。
変化が訪れたのは、3年前に長男一家が近隣に引っ越してきてからです。
「じいじ、ばあば、今週も行くね」
金曜日の夕方、そんな電話が入ると、恵子さんは買い物袋を手にスーパーへ向かいます。肉、魚、果物、お菓子、ジュース。気がつけば、週末の食費だけで1万円を超えることも珍しくありません。
「孫たちが喜ぶ顔をみると、つい買っちゃうのよね」
そういって笑う恵子さんですが、月曜日になると決まってため息をつきます。
「あなた、冷蔵庫……ほとんど空よ」
平日の食事は質素そのもの。週末に使い切ってしまうためです。光熱費も跳ね上がりました。冬場は暖房、夏場はエアコンがフル稼働。お風呂も1日2回沸かします。
「かわいいんだ。でもな……」
正夫さんはそういって言葉を濁しました。通帳残高が、少しずつ確実に減っていることを知っているからです。
「月3万円の黒字」が「月2万円の赤字」へ
ファイナンシャルプランナーとして相談を受けるなかで、佐藤さん夫婦のようなケースは決して珍しくありません。年金を頼りにしている世帯に週末ごとの追加支出が重なると、簡単に赤字へ転落します。
佐藤さん夫婦の場合、平日は月19万円で収まっていた生活費が、週末の孫来訪によって食費・光熱費・レジャー費などで月6万円近く膨れ上がっていました。食費に関しては3倍になっています。収入との差額の月3万円は、貯金の取り崩しです。
「でも、息子たちにお金が苦しいなんていえないよ」
正夫さんはそういいます。息子夫婦は共働きで忙しく、孫を預かること自体が支援になっているという自負もありました。
しかし、問題は感情ではなく数字です。仮にこの赤字が10年続けば360万円です。老後資金は、想像以上に脆く削られていきます。
「孫のために使ったお金だから後悔はない」
多くの高齢者がそう口にしますが、その結果、80代で生活が立ち行かなくなり、子ども世代に経済的支援を求めるケースも少なくありません。善意が、結果的に家族全体の負担を増やしてしまうのです。

