(※写真はイメージです/PIXTA)

現代社会において、相続は単なる財産の承継にとどまらず、家族の歴史や人間関係が複雑に絡み合う問題です。特に、核家族化やライフスタイルの多様化が進むなかで、予期せぬ相続問題に直面するケースが増えています。本記事ではAさんの事例とともに、過去の人間関係や財産管理の不備による相続時トラブルについて、木戸真智子税理士が解説します。※プライバシーのため、実際の事例内容を一部改変しています。

申告を終えたはずが、容赦ない追徴課税

そんなある日、税務調査の連絡がきました。孤独死だったため、そんなこともあるだろうと、甥も落ち着いて当日を迎えました。しかし税務調査の際、甥は衝撃の事実を聞かされます。なんと養子縁組をしていた女性にAさんは過去に贈与をしていたのです。

 

その当時の贈与財産が申告漏れであることを調査官から聞かされました。当時がどんな状況だったのか、甥にはまったくわからなかったので、驚くばかりでした。しかも叔母が養子縁組していたのは40年近くも前です。そんなに前のことが、なぜいま関係あるのかということもわかりません。甥はもう一度Aさんの遺品整理を行うことに。一体、どういう状況だったのか? 真相を探るため、膨大な量の書類を念入りに調べました。

 

調査によって出てきたのはAさんの養子縁組関係だった女性への切実な想いでした。離婚を機に、養子縁組の関係も解消することになったものの、Aさんにとっては大事な我が子のような存在だったことが伺えました。

生前に本人から情報を聞くことの重要性

結局、詳しいところになると調査官の情報提供もあってでしたが、Aさんは当時、養子縁組の関係だった女性に相続時精算課税制度を使って、3,000万円ほどの上場株式を贈与していました。その情報がなかったため、相続の申告の際は漏れていたのです。結果的に約1,400万円の追徴課税となりました。

 

お盆とお正月しか顔を合わせなかったこと、また、過去のことを話したがらないというAさんの性格もあったため、想定外の事実があとになって発覚する結果に。叔母にとっては自分が唯一の身内だったのだから、もっといろいろな話をしておけばよかった、と甥は後悔しました。

 

本人からしか聞けないこともあります。そしてAさんの家族に対する強い気持ちもあとになって知り、甥は申し訳ない気持ちになりました。もっと、家族として、密なコミュニケーションをとればよかった、さみしかっただろうなと胸が痛くなったのでした。

 

過去に解消された養子縁組であっても、贈与に関する情報は相続に影響を与える可能性があります。相続は家族関係や個人の歴史が複雑に絡み合い、思いもよらない問題が発生する可能性を秘めています。

 

「自分の場合は大丈夫」と思わずに、ご自身の家族や親族とのコミュニケーションを大切にし、生前のうちに将来について話し合っておきましょう。

 

 

木戸 真智子

税理士事務所エールパートナー

税理士/行政書士/ファイナンシャルプランナー

 

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