大相撲の懸賞本数が多い→広告費とその背景にある企業収益が堅調
大相撲2025年初場所の懸賞事前申込本数は2,955本と過去最多で、実績も2,815本と過去最多だった。企業の広告費、そして背景にある企業収益の代理変数といえる大相撲懸賞本数が好調を維持したことが確認できた。
初場所初日の結びの一番、横綱・照ノ富士と小結・若隆景の取組には60本が懸かった。初日の取組としては過去最高である。2025年春に東京ドームで行われる「MLB東京シリーズ2025」開幕戦(ドジャース対カブス戦)の宣伝として、大谷翔平選手が描かれた懸賞旗も登場した。
さらに初場所14日の結びの一番、2敗の前頭・金峰山を追う3敗同士の大関・豊昇龍と前頭・尊富士の取組には58本が懸かった。
初場所千秋楽での、琴桜と豊昇龍の大関同士の結びの取組に懸かったのは、54本にとどまった。懸賞が分散して懸かった感がある。この一番に勝てば初優勝が決まった金峰山は、王鵬との前頭同士の取組となった。この取組には国技館に来場したファン投票1位の森永賞も含め26本の懸賞が、大関・大の里と前頭・宇良の取組には40本が懸かった。
25年初場所の結果は、大関・豊昇龍が関脇時代の23年名古屋場所で初優勝して以来二度目の優勝、大関昇進後では初の優勝を飾った。結びの一番で琴桜との大関対決に勝利し、前日14日目まで1差で追っていた金峰山と千秋楽に金峰山に勝ち星を並べた王鵬との優勝決定巴戦を制した。場所後、1月29日の臨時理事会、春場所の番付編成会議を経て正式に第74代横綱・豊昇龍が誕生した。
1つの取組に懸かる懸賞本数は、「最高61本」が原則だが…
なお、1つの取組に懸かる懸賞本数は60本と上限が決まっている。これに、国技館開催場所だけ来場したファン投票1位の取組に懸けられる森永賞が加わり、61本が原則として最高本数になる。2024年秋場所では、大関・豊昇龍対関脇・大の里の取組にコロナ禍以降初めて61本が懸かった。
ただし、例外として63本になったことがある。これが現在、1つの取組に懸かった最高本数だ。これは2024年初場所14日目の結びの予定だった横綱・照ノ富士対大関・豊昇龍の取組が、豊昇龍休場で照ノ富士の不戦勝になり、その取組に懸かっていた一部が、実質的に結びの一番になった大関・霧島対関脇・琴ノ若の取組に回るという特殊事情があったためである。

大相撲九州場所の懸賞事前申込本数は1,757本だった。2023年九州場所前に公表された事前申込本数は1,359本だったので、前年同場所比は+29.3%の増加である。
九州場所は、実績も過去最高だった2015年の1,579本を9年ぶりに更新し1,667本になった。2024年の企業収益の好調さ、広告費の増加を示唆しているといえる。なお、前年同場所比は+21.3%の増加になった。
「懸賞事前申込本数」と「懸賞本数」、両方を見る理由
「懸賞事前申込本数」と「懸賞本数」を両方確認するのには、意味がある。大相撲の場合、人気力士に懸賞が多く懸かるが、引退や怪我などにより休場すると、他の取組への振り替えがなければ、予定していた懸賞はなくなる。万一、人気力士が大勢休場しその場所の実績の懸賞本数が事前申し込みより大きく減った場合は、懸賞本数を広告費および企業収益の代理変数として扱うことに問題がある場合も出るかもしれない。
2024年の九州場所で一番多く懸賞を獲得したのは、優勝した大関・琴桜の302本。第2位は大関・豊昇龍の191本、第3位は大関・大の里の189本だった。番付上位の3大関がベスト3になった。
大相撲2025年初場所の懸賞事前申込本数は2,955本で、2024年秋場所前の9月7日に日本相撲協会が発表した2,628本(=過去最多本数)を上回った。24年初場所の事前申込本数2,366本と比較すると、前年比は+24.9%の増加だった。
初場所の懸賞本数の実績は2,815本と、横綱・照ノ富士が引退したものの過去最高だった24年秋場所の2,455本を更新した。24年初場所の懸賞本数は2,088本だったので前年同場所比は+34.8%と、9場所連続で前年比増加になった。
なお、コロナ禍前の過去最多の2018年秋場所2,160本を更新したのは2023年秋場所の2,325本、さらに2024年秋場所で2,455本となっていた。
2025年初場所で一番多く懸賞を獲得したのは大関・大の里で、327本だった。優勝した大関・豊昇龍が獲得した懸賞は308本で第2位。負け越しになってしまった大関・琴桜だったが、獲得した懸賞は179本で第3位だった。2024年九州場所に続き、番付上位の3大関がベスト3になった。
現在の景気局面は、2020年5月を谷とする拡張局面に当たる。新型コロナウイルスにより、政府が4月7日に緊急事態宣言を発出し経済活動が停滞したが、5月を谷として上向いた。
大相撲も、新型コロナウイルスの流行により、2020年夏場所(5月場所)は興行自体が中止となった。本場所の中止は、八百長問題で中止となった2022年春場所以来のことである。本来は名古屋場所として開催される7月場所は、感染リスクを考慮し大人数での移動を避けるため、開催会場を愛知県体育館から国技館に移した。当初は無観客興業を想定したが、最終的には定員の25%程度を上限とする有観客興業となった。なお、夏場所の番付が発表済みだったため、そのまま7月場所の番付に持ち越された。
懸賞に関しては、夏場所は中止となり0本。7月場所から復活するも懸かったのは1,000本と、2015年~2024年の10年間で最少だった。国技館開催となったことから森永賞もインターネット投票形式で実施された。7月場所後半には、東京都が企画した新型コロナウイルス感染防止の懸賞旗風の告知旗も登場した。
両国国技館開催場所の懸賞本数は、地方開催場所を上回る傾向があるためジグザグの形状になるものの(図表3)、懸賞本数のグラフは2020年夏場所のゼロを谷として2025年初場所まで右肩上がりになっていて、景気が拡張局面にあることと整合的だ。
個人が大相撲の懸賞を懸けることができない。そのため、懸賞本数は企業の動きを反映する。広告費や企業収益の速報性のある代理変数といえる。企業収益の代表的な法人企業統計は、2025年2月ではまだ2024年7~9月期のものしかない。
経済産業省によると広告業売上高の最新データの2024年11月は4851憶円、前年同月比+2.7%の増加であり、九州場所の懸賞本数前年場所比増加と整合的である。
最近の大相撲懸賞本数は、企業収益の好調さ、広告費の増加を示唆しているといえるだろう。
宅森 昭吉
景気探検家・エコノミスト
景気循環学会 副会長 ほか