複雑ゆえ米国IRSも手を出せない未公開株式、IRS「弱体化」の歴史とこれから【税理士が解説】

複雑ゆえ米国IRSも手を出せない未公開株式、IRS「弱体化」の歴史とこれから【税理士が解説】
(画像はイメージです/PIXTA)

富裕層が日本以上に優遇されている国、アメリカ。しかし、法律の抜け穴を悪用するようなことがあってはいけません。昨今、IRS(アメリカ内国歳入庁)は調査を強化してきており、件数も増えてきています。本稿では現在、カリフォルニア州にオフィスを構える国際税務のプロフェッショナルが、IRSの歴史を特に税制優遇が行われているPE(未公開株式)との関係について解説します。

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複雑ゆえIRSも手を出せない未公開株式

アメリカの超富裕層への税率は異常といっていいほど低いです。そのなかでもPrivate Equity(未公開株式、PE)は別次元の税制優遇が行われています。

 

PEへの投資をするファンドの多くはパートナーシップを作り、企業の買収を行っています。それは非常に複雑な仕組みで、IRS(アメリカ内国歳入庁)もお手上げだといいます。IRSは多国籍企業には厳しい税務調査を行っていますが、このようなパートナーシップへの税務調査は行われていないのが現状です。

 

PEの収益構造は、マネージメントフィー(資産の2%、ファンドマネージャーへの管理報酬のこと)および将来の利益に対し、20%の成功報酬からなっています。この成功報酬のことを「Carried interest(キャリードインタレスト)」と呼び、正確には出資額に対する利益配分を指します。

さらなる「節税」方法を模索するPE業界

過去にもこの抜け穴を埋める試みは行われました。しかし、PEファンドの業界には200人ものロビイストがおり、過去10年間で6億ドルを使い課税強化を阻止してきているのが実態です。そのため、この10年で1,300億ドルの税金の取り損ねがあったと推測されています。

 

にもかかわらず、PEファンドの業界はさらなる税制優遇の手段を模索してきました。

 

2011年にはマネジメントフィーの一部を免除し、キャリードインタレストの割合を大きくすることでさらに税金の減免を図ろうとしました。このテクニックをFee Waiver(フィーウェイバー)と呼びます。この業界の大手であるKKR、Apollo Global Management、TPG Capitalはこの手法を使うようになりました。ですが、このフィーウェイバーは脱税ではないかという指摘があります。

 

この手法が横行するなか、内部告発者が出ました。オバマ政権時のことです。しかし、ロビイストの強い反対で、弱腰になり、2015年に特定のフィーウェイバーのみ違法とし、該当しないフィーウェイバーを合法とすることになりました。

弱体化し続けるIRS

2008年から2018年にかけてIRSの税務職員が全体の3分の1に削減されました。そのため、IRSは資金力、政治力に勝り、複雑なストラクチャーを有するPEに太刀打ちできませんでした。実際、内部告発者が指摘した32社のほとんどに対し税務調査を行っていませんでした。

 

第一次トランプ政権も当初は税制改革に乗り気でした。通常1年の長期キャピタルゲイン優遇税率をキャリードインタレストの収入および売却には3年の保有期間が必要としました。IRSはPEおよびパートナーシップ間の内部取引を厳しく監査できる税務調査権を強化できるとしましたが、共和党の反対に遭いました。当時、財務省長官のスティーブン・ムニューシン氏はこのIRSの税務調査権を制限しました。

 

このような背景から実際に3年保有せずとも優遇税率を受けられる手法が横行しました。要はやりたい放題です。このように、所有期間が3年未満でも優遇税制を受けられるような取引の手法をCarry Waiver(キャリーウェイバー)といいます。このキャリーウェイバーも脱税ではないかという指摘があります。

バイデン政権で「IRS」を大幅に強化

これらのPE企業はコロナのパンデミックでも大きな利益を上げました。2020年の報酬はBlackstoneのスティーブン・シュワルツマン氏は 6億1,000万ドル、KKRの共同創始者はそれぞれ9,000万ドル、Apoloの  レオン・ブラック氏は2億1,100万ドルとなっています。

 

2022年のバイデン政権ではインフレ抑制法が制定され、IRSの強化が行われました。しかし、2023年には財政赤字の影響を受け予算が削減されました。しかし、2024年には税務調査件数が増加したとの報告も上がっています。

 

IRSの強化を行っていかなければ、格差は広がっていきます。もちろん、抜け穴を活用した、ワケのわからないスキームを活用した脱税はやってはいけません。

 

ただ、この富裕層に優しい税制がトランプ政権で今後どうなっていくのか、注目が必要です。

 

税理士法人奥村会計事務所 代表

奥村眞吾

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