超富裕層の所得税が「ゼロ」になるケースも…「節税目的」で多額の寄付を行うアメリカ富裕層の実際【税理士が解説】

超富裕層の所得税が「ゼロ」になるケースも…「節税目的」で多額の寄付を行うアメリカ富裕層の実際【税理士が解説】
(画像はイメージです/PIXTA)

イーロン・マスクなどをはじめとした、アメリカの超富裕層の所得税が限りなくゼロに近かったことが話題になりました。日本の税制では不可能な事象ですが、アメリアでは可能です。その背景には寄附金控除をはじめとした、税制の違いがあります。本稿では現在、カリフォルニア州にオフィスを構える国際税務のプロフェッショナルが、日本とは大きく異なるアメリカの寄附金控除の実際を解説します。

アメリカの超富裕層の所得税が限りなくゼロ?

日本では考えられない話ですが、超富豪の所得税が少なくなることがあるようです。過去には、アマゾンの創業者であるジェフ・べゾス氏は2007年と2011年に、起業家のイーロン・マスク氏は2018年にそれぞれ所得税をゼロにしたことが報道されています。

 

ほかにも大富豪の前ニューヨーク市長のマイケル・ブルームバーグ氏、巨大投資家「物言う株主」として日本でも有名なカール・アイカーン氏、慈善家でも名をはせている投資家のジョージ・ソロス氏も所得税ゼロの年があったと報じられています。

 

イーロン・マスク氏の持っている資産は19兆円を超えているとされています。英国・BBCの報道では、イーロン・マスク氏は2018年の納税額がゼロだったと報じています。

アメリカの富裕層の現状

調査報道機関のPROPUBLICAによると、富裕層の上位25人の合計保有資産価値は、2014年から2018年に4,010億ドル増加しましたが、連邦所得税の支払額は136億ドルにとどまったとされています。

 

ここで留意したいのが、資産が増えたからといって税金が増えるわけではないということです。持っている株や不動産が値上がりしたからといって、所得税を払うわけではありません。あくまでも、売却した際の譲渡益に課税されます。つまり、売却しないで所有し続けている間は、所得税はかかりません。

 

そうであるとしても、これだけの富豪たちが所得税が非常に少ないというのは、日本の税法からは考えられません。

 

かつてアップルのスティーブ・ジョブス氏もマイクロソフトのビル・ゲイツ氏も、報酬は株でもらっていました。会社からの年間報酬は1ドルです。これは給与を受け取ってしまうと普通の税金がかかってしまうためです。

 

アマゾンの場合、配当もないため所得はないのだと考えられます。また、別の方法として、非課税の地方債に投資することや、信託を活用することも想定されます。

 

もうひとつ日本人にはなじみのない方法としては、必要経費の利用です。日本の場合は、配当、利子などの収入に対して必要経費は原則存在しません。しかし、アメリカの場合は違います。支払利息は別途損金になります。

 

アメリカの確定申告書を見てもらうと、日本でいう所得金額にあたる調整後総所得金額(Adjust gross income)が富裕層の場合かなりプラスになるのですが、ここから支払利息を引くことができます。

多額の寄付金は節税が目的か?

ほかにも考えられる方法としては、寄付金です。アメリカは日本と異なり、総所得の最大60%まで所得控除を受けられます。そのため、自分が設立した財団や学校に多額の寄付を行います。具体例を挙げると、2015年ごろに旧Facebook社CEOのマーク・ザッカーバーグ氏が日本円にして5.5兆円相当の寄付を行いました。これにも寄付による節税効果を狙った側面があったと考えられます。

 

このような寄付金に対して、世界三大投資家のひとりであるウォーレン・バフェット氏は以前インタビューのなかで次のように答えています。

 

「私の個人資産の99%は慈善活動に充てている。私から多くの税金を取って増え続ける米国債務のわずかな返済に使うよりも、慈善活動に資金を提供したほうが社会の役に立つ」

「富裕層の寄付金」によって社会が支えられている実態

前出のPROPUBLICAの報道は、日本の大手新聞にも掲載され、比較的大きく取り上げられました。その一方で、アメリカではほとんど話題になりませんでした。このような記事が出ると妬み社会の日本では、「米富裕層は税金を払わない方策ばかりしている」と、攻撃的な論調が目立ってしまう空気があります。

 

しかし、少し離れたところから社会全体を見てみるとどうでしょうか。多くの恵まれない人たちは富裕層に感謝しています。実際、学生の奨学金から慈善活動まで、アメリカはすべて寄付金で賄われているからです。

 

税理士法人奥村会計事務所 代表

奥村眞吾

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