格差社会の不安と生きづらさ
雇用の不安定化が進んだことは、企業社会と近代家族の結びつきからなる戦後日本社会の編成原理にも決定的な影響を与えた。近代家族という家族像が理想とする性別役割分業規範は、ジェンダー不平等による抑圧の作用を強めていく。
1985年成立の男女雇用機会均等法は、性別により差別されず職業生活を送れることを目的としたが、企業は総合職と一般職からなるコース別人事管理制度を作って対応し、正規雇用のなかでの実質的な女性差別は温存された。多くの女性はケアを負わされたまま、不安定な非正規雇用のもとでサービス経済化を支えることを強いられた(上野千鶴子『女たちのサバイバル作戦』文春新書、2013年)。
内閣府の「国民生活に関する世論調査」によれば、「あなたは、日常生活のなかで悩みや不安を感じていらっしゃいますか」という設問に対して、「感じている」と答えた人の割合は、1986年には48.7%であったが、これが2009年には68.9%にまで大きく増加している。どのようなことに悩みや不安を感じているかという追加設問に対しては、2009年調査の回答(複数回答)上位が、1.「老後の生活設計」(54.9%)、2.「自分の健康」(49.2%)、3.「今後の収入や資産の見通し」(43.9%)の順となっている。
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また、「お宅の生活は、これから先良くなっていくと思いますか」という設問に対して、「悪くなっていく」と答えた人の割合は、1986年には14.2%であったが、2009年には32.3%にまで増加した。この間の調査結果からは、1990年代半ばを境に、「良くなっていく」と答えた人との割合の逆転が確認できる。
このように、ポストバブルの時代は、雇用不安が広がり、経済成長への展望も描けず、生活への不安が広がる時代であった。少子高齢化の進展から人口減少社会へと向かうなかで、多くの人びとが格差社会に生きづらさを抱える時代となったのである。
