今回は、特定の相続人を優遇した遺言が「遺留分」を侵害したケースについて見ていきます。※本連載では、税理士・内田麻由子氏、弁護士・武内優宏氏の共著『誰も教えてくれなかった「ふつうのお宅」の相続対策ABC』(セブン&アイ出版)の中から一部を抜粋し、実際のケースをもとに、「ふつうのお宅」で起こりうる、身近な相続(対策)の事例を見ていきます。

相続紛争を防止するのに遺言は最善の方法だが・・・

渋沢英八さん(享年76歳)には、長男の忠久さん(50歳)と二男の義治さん(48歳)の2人の子がいた。英八さんには、財産として先祖代々の土地に建てた自宅(時価3500万円)と1500万円の預金があった。英八さんは、二男の義治さんが同居して面倒を見てくれたので、常日頃、「自宅は義治にあげる。残った財産は2人で折半するように」と言っていたようだった。

 

英八さんが亡くなり、義治さんが遺品を整理していると遺言書が出てきた。それには、「自宅は義治に相続させる」とだけ書いてあり、他の財産についてはなんの記載もなかった。それをみて長男の忠久さんは、「なんで二男のお前が先祖代々の土地を相続するんだ!」と怒り、遺言どおり自宅を義治さんが相続するなら、1500万円の預金はすべて自分が相続し、さらに相続財産総額の5000万円の半分にあたる2500万円に足りない分として1000万円の代償金を支払えと主張してきた。

 

義治さんは、父が生前、預金は半分ずつにするようにと言っていたと説明したが、一切聞き入れてもらえない。もめた結果、お互い弁護士に依頼することに・・・。

 

 

最近は、遺言作成キットなども市販されており、遺言が身近になってきています。これまでみてきたように、遺言は相続紛争を防止するために最善の方法ですので、遺言が皆様の身近なものになってきているということは、大変喜ばしいことです。

 

しかし、専門家に一切相談をしないで遺言を作成してしまったために、かえって紛争を招いてしまったということも少なくありません。私が受けた相続紛争でも、遺言があるためにもめてしまったケースがあります。

 

そこで、遺言を作成する際に気をつけるべきことについて説明していきます。

財産を最低限相続できる各相続人の「遺留分」

遺言を書く際に、まず意識しなければいけないのは、兄弟姉妹(甥姪)以外の相続人には、最低限相続できる権利(これを遺留分といいます)があるということです。法定相続人のうち配偶者、親(直系尊属)、子、孫(直系卑属)には、「遺留分」という最低限相続できる権利が認められています。

 

2人の子がいるのに1人の子だけに全部相続をさせる遺言のように、遺言の内容が遺留分を侵害する内容の場合、相続できなかった子が「せめて最低限の割合は相続させろ」という「遺留分減殺請求権」を行使して紛争になることがあります。したがって、遺言を作成する際には、原則として、各相続人の遺留分を侵害しない内容にしておく必要があります。

 

では、どのくらいの財産を最低限相続できるのでしょうか。各相続人の遺留分をみてみましょう。

 

ⅰ直系尊属のみの場合

相続人が父母や祖父母の直系尊属のみの場合、相続財産の3分の1が遺留分となります。

 

900万円の遺産があり、相続人が父母2人だった場合、相続財産の3分の1である300万円に対して法定相続分2分の1の割合ずつ、すなわち父母各150万円ずつ最低限相続をする権利があるということになります。

 

ⅱ直系卑属以外の場合

相続人に配偶者や子どもがいる場合、相続財産の2分の1が遺留分となります。こちらのケースが圧倒的に多いかと思います。

 

900万円の遺産があり、相続人が子2人だった場合、相続財産の2分の1である450万円に対して法定相続分2分の1の割合、すなわち各225万円ずつ最低限相続する権利があるということになります。

 

たとえば、すべての財産を長男に相続させるという遺言があっても、二男は長男に対し、225万円分は相続させろと主張することができるということです。

 

以上のように最低限相続できる権利があるのですが、実際の遺留分の計算をするには、ある相続人にだけ特別に与えた生前贈与があるか、相続人に債務があるかなどの事情も考慮する必要があり複雑です。

 

ですから、特定の相続人を優遇する内容の遺言を作成する場合、他の相続人の遺留分を侵害していないか専門家に確認をしてもらったほうがよいでしょう。

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    本連載は、2014年9月3日刊行の書籍『誰も教えてくれなかった「ふつうのお宅」の相続対策ABC』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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