疎遠だった亡き父の「ほんとうの気持ち」
サラリーマンのAさん(50歳)には、疎遠にしている父Xさんがいます。昭和気質のXさんは口数が少なく、Aさんが子どもの頃から声をかけるのは叱るときだけ。褒められた記憶などありません。Aさんはそんな父が苦手で、就職を機に家を出てからというもの、長いあいだ実家に顔を出さずにいました。
このたび、母親から父が亡くなったと連絡を受け、久々の帰省を決心。実家に着くと、早々に「遺産分割」についての話し合いが行われました。
Aさんには現在15歳の娘Bさんがいます。どうやら父は、自身の孫にあたるBさんのために生前贈与を考えていたようです。
Aさん「は? なんで!? いや、ありがたいけどさ……」
母親「通帳にメモが挟まっていたんだけど、Bちゃんが将来、大学に行くときや結婚するときに使ってほしいんですって。あんたはお父さんを嫌って全然こっちに帰ってこなかったけど、いつもあんたやBちゃんを心配していたのよ。きっと自分では渡せないと思ったから丁寧にこんなメモまで残して、私に見つけてほしかったんでしょうね」
Aさん「……。で、でも、なんで110万円なの? なんかキリが悪い感じがするけど」
母親「お母さんも詳しくは知らないけど、メモには『これは非課税だから申告不要。全額Bに使えるお金』って書いてあったわ」
Aさん「なんだよ、それ……俺たちのことを気にかけているんだったら、なんでもっと素直に連絡くれなかったんだよ!」
亡き父の想いを知り「孫の顔をもっと見せてやればよかった」と後悔するAさん。思わず涙がこみ上げます。
「このお金は大事に使おう。Bが大学に進学したら、『じいちゃんがくれたお金だ』とちゃんと伝えてから、父の意向どおりまとめて渡そう」
そう心に誓ったのでした。
