今回は、被相続人が亡くなった際には、基本的に「相続税の申告」が必要な理由を解説します。※本連載では、税理士・内田麻由子氏、弁護士・武内優宏氏の共著『誰も教えてくれなかった「ふつうのお宅」の相続対策ABC』(セブン&アイ出版)の中から一部を抜粋し、実際のケースをもとに、「ふつうのお宅」で起こりうる、身近な相続(対策)の事例を見ていきます。

「10か月以内」に申告が必要な相続税の手続き

春子さん(55歳)は、実母(サワさん)・夫・息子の3世代で同居する専業主婦。10年前に認知症だった父を亡くした後、母を5年間介護した末に看取り、喪主として葬儀を執り行った。

 

長年に及ぶ介護を経て急に気が抜けてしまった春子さん。ふと気がつくと母が亡くなってから8か月が経とうとしていた。「そうだ、1年のうちに遺産相続の手続きもしなくてはいけないのでは?」と、まだ2人の妹たちとも、相続のことについてはなにも話していない。

 

税務署に相談に行くと、春子さんらの今住んでいる母名義の家と、母の遺した預金について相続税の申告をする必要があると言われた。しかも亡くなってから10か月以内に申告しなければいけないらしい。

 

「えー!どうしよう、あと2か月しかないわ」

 

困った春子さんから、息子にインターネットで相続に詳しそうな税理士を探してもらったと電話がかかってきて、そこからてんやわんやの申告が始まったのだが・・・。

 

 

申告期限まで2か月という状況で・・・

税理士事務所には、毎日たくさんの相談が舞い込んできます。今日も、

 

「あの、相続のことでご相談したいのですが……」

 

と心配そうな女性の電話の声。これまでの経緯を聞くと、申告期限まであと2か月しかない!さすがに私もあわてて早速アポイントをとりました。

 

まずは被相続人と相続人は誰かを確認します。被相続人はお母様のサワさん(80歳)、相続人は長女の春子さん・二女の夏恵さん・三女の秋代さんの3人です。この場合、相続税の基礎控除額(平成27年以降)は、

 

3000万円+600万円×3人(法定相続人の数)=4800万円

 

です。財産が基礎控除額以下ならば、相続税の申告は必要ありません。

 

次に遺言の有無を確認します。入退院を繰り返していたお母様は遺言を残していませんでしたので、3人の相続人で話し合って遺産をどう分けるかを決めなくてはなりません(遺産分割協議)。夫や息子は相続人ではありませんので、話し合いに加わることはできません。

 

財産は、自宅の不動産が3000万円ほど。そして、いざ預貯金を整理してみると4000万円もあり、合計7000万円になるとのことで、相続税がいくらになるか心配していました。債務はありません。

「小規模宅地等の評価減の特例」は使えそうだが!?

サワさんは生前、長女の春子さんと同居していたので、自宅の土地の評価については「小規模宅地等の評価減の特例」が使えそうです。

 

「この特例が使えれば、自宅と預金を合わせた財産の評価額が基礎控除額の4800万円を下回りますので、相続税はかからなくなりますよ」

 

と話すとほっとした様子でした。「小規模宅地等の評価減の特例」とは、被相続人(サワさん)の自宅を同居親族(春子さん)が相続し、申告期限まで居住していれば、その宅地のうち330㎡(平成26年までは240㎡)までは80%減額できるというものです。

 

「相続税がかからないのなら申告しなくてもよいですね。なにしろ1年だと思っていたら10か月、あと2か月しかないので……」

 

と言いましたが、それは違います。「小規模宅地等の評価減の特例」は、あくまで申告をしてはじめて認められる特例です。つまり、相続税がかからなくても相続税の申告はする必要があるのです。

 

【次回に続きます】

本連載は、2014年9月3日刊行の書籍『誰も教えてくれなかった「ふつうのお宅」の相続対策ABC』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

誰も教えてくれなかった「ふつうのお宅」の相続対策ABC

誰も教えてくれなかった「ふつうのお宅」の相続対策ABC

内田 麻由子 武内 優宏

セブン&アイ出版

我が家の場合、税金はいくら? どれだけ節税対策できる? 相続対策エキスパートの税理士&弁護士が新税制への対応を書き下ろし! 本邦初の税理士と弁護士の“共著"で、これほど網羅的に書かれた本はありません。 "争続"紛争…

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