今回は、自宅不動産を巡る兄弟姉妹間の相続紛争を防ぐ方法について解説します。※本連載では、税理士・内田麻由子氏、弁護士・武内優宏氏の共著『誰も教えてくれなかった「ふつうのお宅」の相続対策ABC』(セブン&アイ出版)の中から一部を抜粋し、実際のケースをもとに、「ふつうのお宅」で起こりうる、身近な相続(対策)の事例を見ていきます。

お金があれば解決できるのだが・・・

前回からの続きです。

遺産が多い人は現金をもっていたり、即時売却できる遊休不動産をもっていたりします。遺産分割のときに、長女がどうしても自宅が欲しいと言ったとします。これに対して、長男も本当は家が欲しかった。その場合、実際に遺産に自宅の価値と同程度の預金があれば、お金で解決できます。

 

仮に、今回のケースで徹男さんの預金が3000万円あったとします。明子さんがどうしても自宅を相続したいと主張した場合、和夫さんは、自宅を相続しない代わり3000万円の預金を相続し、自宅と同程度の現金が相続できるのであれば、結果として納得できるでしょう。

 

言い方は悪いですが、お金があれば、お金で解決ができてしまうのです。しかし、遺産の大部分が自宅不動産である今回のようなケースではもめやすいのです。

 

明子さんは徹男さんと同居していたわけですから、自宅をそのまま相続したいと思っていました。特に明子さんは、自宅で英語塾を開いて生計を立てているのだからなおさらです。

 

和夫さんが、預金の500万円だけでいいよと言えばそれで済んだのですが、和夫さんは遺産の半分をもらう権利があるのでそうはいきません。和夫さんだって、生活は苦しいのですから、遺産総額(3500万円)の半分である1750万円を権利として主張してきました。

 

そうすると、明子さんは、預金500万円で足りない1250万円を代償金として、和夫さんに支払わなければいけません。明子さんに1250万円の貯金があれば問題ないのですが、このご時世1250万円もポンと払える人はなかなかいません。そうすると、明子さんは借金しなければいけないかもしれません。

 

それならば、不動産を売却して2人で分ければよいかというものの、自宅を改装して英語塾をしている明子さんとしては、自宅を売却するとなると、他の教室を借りなければならなくなり、英語塾の経営が赤字になってしまいます。明子さんは住まいと生活を守るために、どうにかして代償金を支払うしかないでしょう。

「感情的な対立」が先鋭化する相続紛争

明子さんとしては、代償金は安く済ませたいと考えるのが当然です。代償金を安くするには、自宅の価値が低くなればよいのです。遺産分割においては、相続人全員が納得できれば、相続不動産の価値をどう判断するかは自由です(ただし、税額を決める評価は税務署が定めたものに限ります)。仮に、自宅の価値が2000万円と判断されれば、和夫さんの相続分は、自宅(2000万円)+預金(500万円)の半分なので、1250万円になります。

 

そうすれば、代償金の金額は、そこから和夫さんが相続する預金500万円を引いた750万円で済むことになりますが、生活に困っている和夫さんとしては、不動産の価値を勝手に低い評価で出されても納得できません。やはり、自宅の価値は3000万円だと主張してきました。こうして、自宅の価値を巡って、遺産分割でもめていくのです。

 

ここに、感情が入ってくると、さらにややこしくなります。明子さんは、徹男さんと一緒に住んでいて、親の面倒を見ていました。ですから、

 

「和夫は長男のくせに家を出て、親の面倒を見てもいないのに、相続のときだけ平等を主張して、なんて図々しいんだ」

 

と主張しました。それに対して和夫さんは、

 

「姉貴は親の面倒を見ていたと言っても、離婚して実家に戻っただけじゃないか。家賃もかからずにこれまで生活してきて、しかも自宅を改装して英語塾まで開いている。そこまで恩恵を受けていれば親の面倒を見て当然だ。さらに相続でも有利になろうなんて、なんて図々しいんだ」

 

と言い始めました。

 

相続紛争は、どっちにも言い分があって、どっちの言い分もある意味正しいから、感情的な対立が先鋭化してしまうのです。こうなったら、もう遺産分割協議どころではありません。どちらも弁護士に依頼して、「遺産分割を巡る3年戦争」に突入です。

「遺言」という遺志は、遺された家族への愛情

このように遺産の大部分が自宅不動産の場合は、遺産分割がむずかしい典型例なのです。相続紛争は決して資産家だけの問題ではなく、家が1軒あればもめる。それが相続紛争の実態なのです。

 

徹男さんは、相続紛争を防ぐためには、なにをすればよかったのか?答えは簡単です。遺言を書いておけばよかったのです。

 

徹男さんが明子さんに自宅を遺したいのであれば、自宅は明子さんに、その他の財産は和夫さんに相続させるという遺言を作ればよかった。とはいっても、和夫さんは、遺留分として、875万円は最低限相続できるので、明子さんが和夫さんに対して、代償金として375万円を支払うように遺言をしておけば、さらに紛争は防止できたと思います。明子さんとしても、375万円であれば用意できたでしょう。

 

他方、徹男さんが明子さんを優遇するつもりがないのであれば、「徹男の死後、自宅は売却して、その代金を明子と和夫とで平等に分ける」という遺言をすることもできます。

 

このように徹男さんが、遺言さえ書いておいてくれれば、明子さんと和夫さんはもめなくて済んだ可能性が高いと思います。

 

遺された家族が、万に一つでも紛争にならないように、遺言という形で遺志を示しておくことが、遺族に対する愛情なのではないでしょうか。

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    本連載は、2014年9月3日刊行の書籍『誰も教えてくれなかった「ふつうのお宅」の相続対策ABC』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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