家族間で起こる相続問題は、複雑なケースが多いものです。とくに、音信不通の相続人がいたり、遺言書に不備があったりするとトラブルが長引くことも…相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が事例をまじえて、相続トラブルを避けるためのポイントと、遺言書作成時の注意点について解説します。
浪費癖の兄
有紀さん(65歳女性)は結婚して家を離れたものの、母親が先に亡くなり、父親が一人暮しになったことから、家族で家へ戻り、ずっと同居をしてきました。有紀さんには兄がいるのですが、学生のころから家を離れており、長男だから親と同居という気持ちはなかったようです。
長男は結婚して2人の子供に恵まれましたが、若いころから浪費癖があり、独身の頃、消費者ローンの返済ができずに父親が肩代わりしたことが何度かあり、両親ももうこれ以上は面倒を見切れないと長男に申し渡していました。
離婚後、30年間音信不通に…
兄の生活態度は結婚しても変わらず、生活費まで使い込んでしまうようで、愛想をつかした義姉は二人の子供を連れて実家に帰ってしまい、離婚したといいます。
それでも懲りず、兄は生活態度を変えられなかったようで、両親にお金の無心をしてきたため、父親は激怒して兄の申し入れは聞かなかったことから、その後は実家にも、有紀さんにも連絡がなく、30年近く音信不通となっています。
その間、母親が亡くなり、父親も亡くなりましたが、知らせるすべがない状態になっていました。
父親は遺言書を残していた
有紀さんが相談に来られたのは、父親の相続手続きをしたいということでした。財産は自宅の土地、建物で評価は2,000万円ほどと預金1,000万円、合わせて3,000万円。相続人は兄と有紀さんの二人で基礎控除は4,200万円ですから、相続税の申告は不要と確認できました。
父親は自筆の遺言書を残していて、自宅の土地と建物と預金は有紀さんにと書いてくれています。父親の意思は、音信不通で、すでに何度も援助してきた長男に渡す財産はないということだったのでしょう。
家庭裁判所で自筆遺言書の検認手続きをするようにアドバイスをし、検認は終わりました。
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
相続実務士®
株式会社夢相続 代表取締役
一般社団法人相続実務協会 代表理事
一般社団法人首都圏不動産共創協会 理事
一般社団法人不動産女性塾 理事
京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。
著書86冊累計81万部、TV・ラジオ出演358回、新聞・雑誌掲載1092回、セミナー登壇677回を数える。著書に、『図解でわかる 相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル 改訂新版』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『図解90分でわかる!相続実務士が解決!財産を減らさない相続対策』(クロスメディア・パブリッシング)、『図解 身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本 2025年版 』(扶桑社)など多数。
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
著者プロフィール詳細
連載記事一覧
連載相続のプロが解説!人生100年時代「生前対策」のアドバイス事例